国民年金保険料の納付期間を5年延長する案を巡り、国会で質疑が集中している。野党は「子ども・子育て支援金に続く新たな負担増隠し」と攻勢を強めるが、5年延長すると負担は増えるばかりなのか。政府の説明を基にこの案を整理する。
公的年金制度は、20歳以上60歳未満が加入する国民年金と、会社員や公務員が加入する厚生年金の2階建て構造だ。納付期間の5年延長案は国民年金の1階部分に当たる。
国会で注目を集めているのは、厚生労働省が16日、今夏にも結果を公表する財政検証で、5年延長した場合の効果を検証する方針を示したからだ。オプション試算と呼ばれ、厚労省が制度変更を検討する目安になる。
実際の負担額はどうか。19日の国会質疑で、武見敬三厚労相は「前回の財政検証の試算」という前提つきで「保険料は5年間で約100万円増加する」と答えた。国民年金の保険料は現在、月1万6980円。40年間納め続ければ受け取れるのは月6万8000円だ。現行の保険料で計算すると、追加的な負担は5年間で約100万円となる。
一方で、納付期間が延びることによって年金額も増える。武見氏は「保険料が増加する代わり、給付費は年間10万円増加する」と理解を求める。おおよそ40分の45、12・5%増える計算になるという。
背景の一つにあるのが、60歳以降も働く人の増加だ。総務省の労働力調査では、60~64歳で勤務している人の割合は73%(2022年時点)に上る。さらに1人暮らしの高齢者が今後増える中、「1階部分」の底上げによる低年金者の困窮対策という面も大きい。
厚労省幹部は「低年金者の将来的な生活の安定を考えた場合、基礎年金の水準を上げる方策として浮上してきた」と明かす。
ただ、国民年金は2分の1を税金で賄っているため、巨額の追加財源が必要になる。50年代には国庫負担が1兆円超に上る見通しだ。5年前に行われた前回の財政検証でも検討課題に挙がっていたが、見送られた経緯がある。
財政検証で効果を図ることになっているものの、岸田文雄首相は「(年末にまとめる)次期年金制度改正の方向性について何ら予断を与えるものではない」と強調しており、年末までに制度化するかの結論を出す方針だ。【宇多川はるか、神足俊輔】
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