今も続くハンセン病元患者や家族に対する、差別や偏見。

国は責任を認め「家族への補償制度」を創設しましたが、補償を受ける人は少ないままです。

時間だけが経過する現状を変えるためには、何が必要なのでしょうか。

■1931年に患者を一生隔離する法律を制定

国は、6月22日を「国の政策で強制的に隔離され差別に苦しんで亡くなったハンセン病元患者を追悼する日」と定め、毎年、式典を行っています。

そんな慰霊の日に武見厚生労働大臣が言及したのは…。

【武見敬三厚労相】「現在もハンセン病元患者や、家族に対する偏見や差別があると思うと回答した方が約4割であるなど、偏見・差別が今も残っている状況がうかがえる結果が得られました」

2023年、国が初めて大規模な調査を行い、明らかになったのは、今なお差別が続いているという厳しい現実でした。

ハンセン病は「らい菌」による感染症です。

国は、1931年に、全ての患者を一生隔離する法律「癩(らい)予防法」を作り、患者を次々と療養所に閉じ込めました。

戦後、治療薬ができて、治る病気となったにもかかわらず、法律だけが放置され…。

隔離政策が誤りだと断罪されたのは、2001年になってからでした。

その間、人々にハンセン病に対する差別心が植えつけられ、矛先は、すでに回復した元患者や家族に向けられました。

■差別で破談を経験した元患者 息子の結婚でも不安が

8月7日に行われた兵庫・尼崎市の講演会で、元患者は次のように話しました。

【ハンセン病元患者 岡山育夫さん(仮名)】「法律がなくなっても、結局まだ人の心の中に、偏見・差別はまだ生きています」

大阪府に住む岡山育夫さん(81歳・仮名)は、子どもの頃ハンセン病にかかり、療養所に収容されました。

手足のまひなどの後遺症もなく社会復帰しましたが、就職や結婚など、人生の節目で、差別に直面しました。

【ハンセン病元患者 岡山育夫さん(仮名)】「(結婚相手の家族が)金輪際、今までの話はなかったことにしてくれと。金輪際、娘に会わないでくれと。これはやはり興信所で調べられたんだなと。うちの家は調べられたらはガラス張りです。そして私の素性は全て分かってしまい、私はこの時初めてハンセン病の偏見・差別があることを思い知らされました」

その後、元患者の女性と結婚して、子どもに恵まれましたが、子どもに過去のことは、一切話さず、ひた隠しにして生きてきました。

そんな中で直面したのは、息子の結婚です。

【ハンセン病元患者 岡山育夫さん(仮名)】「調べに来られれば私の素性が分かり、長男の結婚が破談になる可能性も大です。商品券の一つも持って(近所の)10軒の家をまわろうと思いました。『この度はうちの長男が結婚することになります。どうかよろしくお願いします』と、これだけ言えば相手に十分伝わると。『興信所の方が聞きに来られたら、どうかいいようにお答えください』と(いう意味で)」

■「補償金制度」を開始 しかし申請は想定の3割

【安倍晋三首相(当時)】「内閣総理大臣として政府を代表して、心から深くお詫びを申し上げます」

2019年、国はハンセン病元患者の家族にも差別が及んだ国の責任を認め、異例ともいえる「家族への補償金制度」をスタートさせました。当初の期限は今年11月21日までした。

補償金の対象となる家族は、およそ2万4000人と推計されましたが、今年7月時点の申請数は、8260件あまりと、想定のわずか3割ほど。

岡山さんの子供も補償金の対象ですが、病歴を打ち明けられず、今も受け取っていません。

【ハンセン病元患者 岡山育夫さん(仮名)】「ハンセン病の偏見・差別を受けてきた人間だから怖さを知っているんでね。法律的には保護される法律はできてきているんだけど、さりとて人の心の中まで変えられるところまでなっていないんでね」
「打ち明けるにはそれなりの勇気と覚悟がいるんだな。今現在は、現在進行中で悩んでおります」

今年6月、国は法改正を行い、家族補償制度の申請の期限を5年間、延長することを決定しました。

家族の補償についての相談を受けている増田弁護士は、申請が増えない現状について、「差別解消への政府の取り組みが不十分だ」と指摘します。

【増田 尚弁護士】「その時の取り組み(強制隔離政策)に比べて、今度被害を与えたことに対してお詫びをして、補償金を受け取ってもらうことへの取り組み方っていうのは、それに比べると充分ではないんじゃないかと」
「差別・偏見を解消していくというメッセージを本当に日頃から発信していくっていうことが求められているのではないか」

家族補償の申請期限は、2029年の11月。

差別や偏見のない社会が実現しているか、私たちにも深い問いが投げかけられています。

■補償制度の周知と心理的なハードルが課題

【関西テレビ 神崎 博報道デスク】「元患者も家族も高齢なんですね。そこに補償制度があることをどう伝えるかということに国も頭を悩ませていて、ポスターであったり、ネットなんかでも広めるんですけども、なかなか伝わらない。もう一つは、伝わったとしても申請するには心理的なハードルもあるので、そこをどうクリアしていくかが課題ですね」

ハンセン病について、当事者以外が理解を深める必要があります。

家族への補償制度について、どのような方が対象で、どんな手続きが必要なのか。厚生労働省に相談窓口があるので、ぜひ活用してください。

【厚労省 家族補償 相談窓口】03-3595-2262(受付は平日午前10時~午後4時)

(関西テレビ「newsランナー」2024年8月13日)

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