岸田文雄首相の突然の自民党総裁選への不出馬表明は、事実上の退陣宣言で盆休み中の列島で驚きをもって受けとめられた。核廃絶や平和の問題に取り組む広島の市民団体は、「核廃絶はライフワーク」と繰り返す岸田首相をどう見ていたのか。
NPO「ANT―Hiroshima」の渡部朋子理事長は「岸田首相は『核抑止』を日本の政治に定着させてしまった。核廃絶・核軍縮は停滞ではなく後退した」と厳しい。昨年5月に広島市であった主要7カ国首脳会議(G7サミット)で出された核軍縮の共同文書「広島ビジョン」は核抑止を容認する内容だった。核を含む戦力で米国が日本を守る「拡大抑止」の議論も進む。
核兵器の製造・使用や威嚇などを禁じる「核兵器禁止条約」を巡り、首相は「核兵器のない世界への出口」と呼んで現状では距離を置くが、渡部さんは「世界の現実に危機感を抱くなら、条約は『入り口』にしなければならない」と日本政府の参加を求める。「この次は堂々と『核抑止』を唱える首相が出てくるかもしれない。市民の側から『ノー』を突きつけるためにも核の問題への関心を高めていきたい」と語った。
「核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」共同代表の田中美穂さん(29)は「3年前の首相就任時には『被爆地選出だからこそ言えることがあるのでは』と少し期待があった」と振り返るが、首相が進めた安保関連3文書の閣議決定などは軍縮とは逆行していた。
サミット開催を実現させた首相の功績をたたえる地元の声には「被爆地の広島が都合良く使われてしまった。市民の側も『G7で頑張った』とねぎらうだけでいいのか」と異議を口にする。会を設立した2019年以降、核政策を問うため広島選出の与野党国会議員に面会を求めてきたが、岸田首相の事務所とはいまだ実現できていないという。「首相にとって核廃絶や核軍縮の優先順位はどれほど高かったのか。最後に核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加するくらいは言ってほしかった」と語った。【宇城昇】
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