岸田文雄首相の突然の自民党総裁選への不出馬表明は、事実上の退陣宣言で盆休み中の列島で驚きをもって受けとめられた。
「沖縄に興味がなく、総理の座にとどまることを最優先に考えて沖縄の問題に対応したように見える」。7月まで那覇市を拠点に活動していた沖縄県出身のライター、友寄貞丸さん(64)=鹿児島県奄美市=は、米軍基地問題などが山積する沖縄に対する岸田文雄首相の姿勢を厳しく評価した。
岸田首相は2022年5月にあった沖縄の日本復帰50年記念式典で、沖縄県が抱える米軍基地の過重負担について「重く受け止め、負担軽減に全力で取り組む」と述べた。しかし、「基地のたらい回し」として県民の反対が根強い米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設計画は着々と進め、23年12月には玉城デニー知事に代わり、地盤改良工事に必要な設計変更の承認を政府が「代執行」した。県内では新たな自衛隊駐屯地が開設され、米軍と自衛隊の共同演習も活発化した。
こうした政治姿勢について、友寄さんは「『しっかりと、丁寧に、全力で』という言葉遣いで沖縄の痛みに寄り添うように見せて、実際には県民より自民党内の長老や米国の声を聞いていた結果だろう。沖縄の問題を自ら解決しようとする政治信念は感じられなかった」と振り返った。
「自民党政治に不信感」
福岡市中央区天神で喫茶店を営む女性(75)は店内のラジオで岸田文雄首相の総裁選不出馬を知った。「いい人なのだろうが、性格が優しく、党に都合よく利用されたのではないか」と話し、次期総裁については「このままの自民党政治が続くなら期待できない」と断じた。
店を訪れていた中央区の栗原巨比古(ひろひこ)さん(73)は「自民党政治そのものに不信感があり、岸田首相がこうしようという姿があまり見えなかった」と振り返り、自民の派閥裏金事件について「政治家が企業や団体などから金を集める構図を変える必要があるのではないか」と話した。
中央区の主婦(45)は「逃げるんだなと思った。能力的にも精神的にも国を背負いきれていなかった」と手厳しい。中学1年の息子を育てているが、物価高が生活を圧迫する一方でアルバイトがなかなか見つからないという。「子どもたちが生きていく未来がどうなるのかちゃんと考えてほしい」と訴えた。【比嘉洋、山口響】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。