欧州からのインバウンド(訪日外国人客)が多く訪れる高野山=和歌山県高野町

今年で登録20周年を迎える世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する高野山(和歌山県高野町)で、町が観光客に課税する法定外税を令和10年4月にも導入する方針を示した。オーバーツーリズム(観光公害)対策を目的に、「入山税」のような形式になる予定。人口が減少していく中、観光客も利用するインフラの維持管理費を確保する狙いがあり、過疎に悩む観光地の姿が浮かび上がる。

約139万7700人。和歌山県がまとめた令和5年に世界遺産・高野山を訪れた観光客数だ。宿泊客は新型コロナウイルス禍の影響を受けた前年の約2・2倍の約21万8600人。このうち外国人宿泊客数は約9万3900人で、前年比約11・6倍。同町の人口2641人(今年3月末現在)をはるかに上回る観光客が国内外から訪れている。

「高野山は、多くの人に来ていただける素晴らしい場所。それを維持するには現在、人口減少下にある住民だけでは厳しく、みなさんにお願いせざるを得ない状況になっている」

高野町の人口は昭和40年代まで9千人台を維持してきたが、減少傾向が続く。高野町の平野嘉也町長は、過疎化が進む中での観光地のインフラ維持の「限界」を訴えた。

観光客が救急搬送者の半数占めることも

平野町長が導入を目指す法定外税は、地方自治体が地方税法に定める税目(法定税)以外に、条例によって徴収できる税目。世界遺産・厳島神社のある広島県廿日市(はつかいち)市が「宮島訪問税」を徴収し、京都市では「宿泊税」が導入されている。オーバーツーリズムに対応するための手段として全国で検討が進む。

法定外税について説明する高野町の平野嘉也町長=和歌山県高野町

高野町では、救急搬送される人の半数超が観光客となることも。公費で公衆トイレを維持管理しているほか、オーバーツーリズムで問題となるごみの放置を防ぐため、町職員や業者が早朝から「ポイ捨てごみの最初のひとつ」を回収している。平野町長は「インフラを持続可能にするため、住民の方にかなりの負担をかけているのは事実」と話す。

同町関係者によると、観光客の受け入れに不可欠な上下水道の維持管理費や、混雑する道路での誘導などのために配置する警備員の費用にはそれぞれ年間2千万~3千万円が必要だという。

高野山は真言宗の聖地であり、観光客だけでなく信者も多く訪れる場所だ。こうした場所への法定外税としては、京都市が昭和60年、文化財保護の財源にするとして、観光社寺の拝観料に上乗せする形で課税する「古都保存協力税」(古都税)を導入した例がある。このときは仏教会が「信教の自由を侵す」として猛烈に反発、有名寺院などが拝観停止で対抗し、わずか3年後に廃止された。

高野山真言宗の総本山金剛峯寺は高野町の想定する法定外税に対し、「高野山と文化財の価値は守っていかないといけない」と理解を示す。一方で、「信者さまでも毎日いらっしゃる方もいれば、月に一度の方、海外の方もいる。多岐にわたる信仰をどう考えるのか、どのような範囲で、どのような方に、どのような形で税をかけるのか、検討の余地がある」としている。

納得してもらえる目的税に

では法定外税はどのような形になるのか。

多くの観光客が行き交う高野山=和歌山県高野町

平野町長は「宿泊者や日帰りの訪問者に、分け隔てなく助けていただきたい。道路や公衆トイレ、水道などへの目的税とし、納得してもらえるようにしたい」。インフラの維持管理や景観維持などの観光施策の経費に充て、将来的には文化財保護の補助金の財源とすることも視野に入れている。

導入時期は多くの参拝者が見込まれる令和16(2034)年の「弘法大師御入定(ごにゅうじょう)1200年御遠忌(ごおんき)大法会」を視野に令和10年4月を目指す。課税対象や徴収方法、課税額などについては今後、国や県、金剛峯寺などと協議を進める。まず、6~7年度には法定外税で賄うべき額を算出する予定だ。

平野町長は「高野山が持続可能な参拝地、観光地であり続けるため、気持ちよく応援していただける形にしたい」と力を込めた。(永山裕司)

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