東京新聞は、各界で活躍する方々によるコラムの掲載を始めました。キャスターの安藤優子さん、前兵庫県明石市長の泉房穂さん、元自民党事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃さん、ピースボート共同代表の畠山澄子さんが月1~2回執筆。今後も新たな筆者が加わる予定です。だれもが生きやすい社会をつくるため、知恵を結集するコラムにご期待ください。

左から安藤優子さん、泉房穂さん、久米晃さん、畠山澄子さん

<泉房穂の直言!>

 兵庫県明石市の前市長で衆院議員の経験もある泉房穂さんに中央、地方関係なく旬の政治の話題を解説してもらいます。市長退任後は幅広い政治経験に裏打ちされた軽快なトークで、テレビ番組などのコメンテーターとしても活躍する泉さん。月1回程度掲載予定のこのコラムでも、自らセールスポイントという「庶民的な立場からの本音トーク」で、政界に直言していただきます。

前明石市長の泉房穂さん(市川和宏撮影)

  ◇ ◇  第1回で取り上げるのは兵庫県の斎藤元彦知事の告発問題です。本質は単なる知事の個人的資質の問題ではなく、政治家の権力乱用に対するチェックの在り方を巡る構造的な問題です。「命の重み」もキーワードです。少なくとも関連する形で人が亡くなっています。その重みは受け止めるべきです。  知事、県庁、県議会、マスコミ、有権者の五つに分けて考えたいと思います。

◆カネとヒト 強大な知事の権限

 知事の主たる権限は方針決定権と予算編成権と人事権の三つです。方針決定権は自治体のビジョン、俗に言う公約とか政策。ポイントは2番目と3番目のカネとヒトです。補助金は知事が増やしたいと言った瞬間に増えるし、いらんと言うとなくなる。すごく強大なお金を巡る権限を持っている。人事権は内部では締め付け。外部では人事権を使って調査をしまくって告発者を死に追いやった。

8月30日、兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)に出席した斎藤元彦知事=YouTubeチャンネル「兵庫県議会インターネット配信」から

 この二つの権限を県民のために行使せず、自分が欲しいもののために、あるいはカネ集めに使うことができてしまう。知事の持つ権限の怖さをメディアは報じるべきです。

◆ご機嫌を損ねたくない県庁の風土

 二つ目の県庁の問題ですが、兵庫県の知事は1962年以来、総務省(旧自治省)出身者オンリーです。総務省の官僚は上から目線で県庁職員は頭が上がらない。県庁職員は東京から送られてくるお殿様のご機嫌を損なわないことが仕事になっているんです。斎藤氏をビッグモンスターに育ててしまったのは県庁の風土です。  イベント会場の授乳室が知事の控室に使われたとの報道がありますが、職員が「知事、授乳室は必要ですから別の所で着替えてください」と言えばいいだけの話です。60年にわたる総務官僚出身知事の歴史が、県民を見ずにお殿様のご機嫌をうかがう県庁の文化になってしまった。

8月30日、兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)で質問する議員ら=YouTubeチャンネル「兵庫県議会インターネット配信」から

 三つ目の県議会ですが、知事と近しい状況を維持したい心理が働いてしまっています。不信任決議に行くか逡巡(しゅんじゅん)していて、辞職勧告決議で終わらせたいという意見がまだあります。これからまさに県議会の対応が問われてくると思います。

◆知事選でマスコミが書かなかった批判

 四つ目のマスコミです。(前回県知事選の)報道はひどかった。もっと丁寧に候補者の人となりなどを報道するべきなのに「継続か刷新か」と選挙報道を単純化しすぎたから、(斎藤知事が)若きヒーロー、イケメン知事現る、といったイメージになってしまった。当選後も県内の首長からは「知事と連絡も取れない。もうあかん」という批判があったのに書かなかった。  最後に有権者です。知事の任期は来年7月までなので、遅かれ早かれ知事選がやってくる。ちゃんとした人を選ばないと県民の生活に悪影響が出る。最後は有権者が問われます。

◆もうリコールと不信任決議しかない

 今回のようにモンスター知事が開き直った時に、何ができるか。法的にはリコールと不信任しかない。でもこの二つは法整備が不十分です。リコールを請求するには厳しい要件がある。兵庫県の場合はおよそ66万人の署名がいる。署名も対面でないと駄目で住所も書いてもらう必要がある。署名の数や集め方に関する厳格な要件を時代に合わせて大幅に緩和するべきです。  知事の不信任決議にも不備がある。知事の不祥事で県議会が解散されるいわれはない。不信任になったら知事に議会を解散されて選挙になり、落選するかもしれないので議員はためらってしまう。議会の解散があるため不信任が使えていない。不信任されたら住民投票をするように見直せばいいと思います。

◆罰則がない公益通報者保護法

 もう一つ不備があるのは公益通報者保護法。告発者捜しをして不利益な扱いをしてはいけないと書いてあるが、罰則はありません。明石市は条例をつくっていて、議会の同意を得た外部の弁護士2人が告発者から請求があった場合、不利益があったかどうか調査をする義務がある。自治体ごとに窓口があるところとないところが割れているのも法の不備です。  いずれにしても、知事個人のキャラクターの問題とか面白おかしくする段階は過ぎていて、権力の乱用のチェックという普遍的なテーマが問われていると思います。

 泉房穂(いずみ・ふさほ) 1963年生まれ。兵庫県出身。NHKディレクターなどを経て司法試験合格。2003年衆院選で当選。2011年から明石市長を12年務め、中学生の給食費など「5つの無料化」を市独自で実現した。



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