経済安全保障上の機密情報の管理を厳格化する「重要経済安保情報保護法案」では、特定秘密保護法と同様に、セキュリティー・クリアランス(適性評価)で認定された人だけが情報を取り扱えるようになる。その際に、家族の国籍や飲酒の節度、経済状況といった身辺調査が行われるが、政府がどの程度調べるのか不明のまま。プライバシー侵害の懸念は残り、対象となり得る民間企業は抵抗感を隠さない。(近藤統義)

◆「性的関係を契機に漏えい働きかけなら対象」

福島瑞穂氏=資料写真

 社民党の福島瑞穂氏は23日の参院内閣委員会で、身辺調査に関して「性的動向まで調査できるのはプライバシーを侵害する」と指摘。性的関係を利用して情報漏えいを働きかける「ハニートラップ」の疑いを調べるのかをただした。  福島氏が曖昧な答弁を繰り返す政府側を何度も追及したのは、高市早苗経済安保担当相が17日の参院本会議で「性的関係を契機に漏えいの働きかけを指したものなら調査の対象だ」と明言したためだ。政府側はハニートラップの疑いが認められれば「適性評価で考慮される事実になる場合がある」との認識を繰り返すにとどめた。

◆「公安庁調査庁も監視?」否定せず

 法案によると、本人の同意を得た上で内閣府の職員が身辺調査するが、その際、家族や同居人の名前、生年月日、国籍も調べる。立憲民主党の石垣のり子氏は破壊活動や大量殺人団体を調査対象とする公安調査庁に「経済安保上問題がある人物も監視するのか」と聞いたが、同庁の担当者は否定せずに「個別の調査対象や具体的な内容に関する事項は、業務遂行に支障を来す」と回答を拒んだ。

高市早苗氏=資料写真

 法案上、調査の詳細は成立後に政府が運用基準で決めるため、現段階では不明。作成の際に参照にするのが、特定秘密保護法で行われている身辺調査だ。

◆質問票30ページ、家賃の滞納歴も

 特定秘密保護法の質問票は約30ページで、本人が記載する。回答欄には、家族関係のほか、テロ団体支援や外国人からの仕事の誘いの有無、精神疾患のカウンセリング歴や症状、借金の理由や総額、家賃の滞納歴まである。家族は配偶者や子、父母や兄弟姉妹、配偶者の父母や子に及び、過去の国籍取得歴も尋ねる。  特定秘密を扱える資格保有者約13万人の9割以上は公務員だ。調査を受けた経験がある中央官僚は「資格がなければ働ける部署が限られる。受けるのが当然という感覚で、強制のようなものだ」と強調。別の省庁関係者も「不愉快なほどプライバシーについて聞かれる」と明かす。

◆「社員に細かく申告させるのは抵抗が…」

 今回の法案で調査対象は民間企業の従業員に大幅に広がると見込まれる。経済界には他国の政府調達や国際共同研究開発に参加しやすくなるとの期待感に、不安や戸惑いが入り交じる。  航空・宇宙産業に電子部品を納める中小企業の幹部は、機密情報の管理を徹底しているとした上で「従業員に個人情報を細かく申告させるのは心理的に抵抗がある。自由な経済社会で、民間人を縛るような制度に効果があるのか分からない」と疑念を募らせる。

 適性評価 犯罪歴や情報漏えいのリスクと関連する家族の国籍など、特定秘密保護法とほぼ同様の7項目について原則として内閣府が調べる。その結果に基づき、担当する各省庁が問題ないと認めた場合に情報を取り扱う資格を与える。評価結果や調査で集めた個人情報は情報保護以外の目的での利用を禁じる。



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