国内の米軍基地周辺で有害な有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)による環境汚染が問題となる中、日本政府が今年7月、米軍基地のPFAS汚染対策の工事費を肩代わりしていたことが分かった。 この基地は、沖縄県宜野湾(ぎのわん)市の米軍普天間(ふてんま)飛行場で、工事費は3億1700万円。普天間では過去にも、日本側がPFASの汚染対策費を負担しており、これで総額は6億円弱となった。 普天間では、これまで200億円を超える基地の補修費も日本側が負担している。PFAS汚染の費用まで、なし崩し的に負担を押し付けられるのか。(中沢誠)

米軍基地の費用肩代わりを巡るこれまでの報道 日本への返還が予定されている米軍普天間飛行場を維持するため、日本政府が2013~23年度、基地内の隊舎や格納庫、倉庫などの補修工事の費用217億円を負担していたことが、東京新聞の情報公開請求で判明した。補修工事は継続中で、2024年度は13億円を予算計上している。取材の過程で、基地内に保管するPFASの汚染対策の費用2億7000万円も日本側が負担していたことが明らかになった。詳細は文末の【関連記事】を参照

◆汚染水があふれ出ないように

普天間飛行場では、過去にPFASを含む泡消火剤を訓練で使っていた。その際に生じた汚染水を、軍用機の格納庫にある地下貯水槽に保管している。

2020年4月、米軍普天間飛行場から流出したPFASを含む泡消火剤=沖縄県宜野湾市で(同県提供)

新たに日本側の負担が判明したPFASの汚染対策工事は、格納庫の大扉を補修するもの。雨水が流れ込んで貯水槽から汚染水があふれ出ないようにする防水工事で、防衛省沖縄防衛局が7月に発注した。 沖縄防衛局は、日本側が負担した理由について、3年前の日米両政府の取り決めに基づくと説明する。

◆負担の根拠は3年前の日米間の取り決め

この取り決めは、米軍が2021年8月、PFASを含む汚染水を浄化済みとして、一方的に基地外の下水道に放出したことをきっかけに結ばれた。 放出直後、宜野湾市が基地周辺の下水を調べると、日本の暫定指針値を超える高濃度のPFASが検出された。 日本政府は、さらなる放出を避けるため、米政府と協議。翌月、両政府で取り決めた内容を「普天間飛行場におけるPFOS及びPFOAを含む廃水の対応について」という書面にまとめた。 普天間の汚染水の対応について、書面では、①防衛省が飛行場に残っている汚染水を引き取り、処分すること ②貯水槽への雨水の流入を防ぐための格納庫の補修は日米政府間で協議すること―としている。

PFAS 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。代表的なPFOSやPFOAは、人体への有害性が指摘されている。日本は2020年、PFOSとPFOAの合算値で1リットル当たり50ナノグラム以下とする暫定指針値を定めた。普天間飛行場だけでなく、横田基地をはじめ日本国内の米軍基地周辺で検出されており、住民生活への影響が懸念されている。

◆過去には汚染水の処理、別の格納庫補修

普天間で日本側がPFASの汚染対策費を負担したのは、今回判明したケースが3件目となる。 2021年度は、地下貯水槽に残っていたPFASを含む汚染水を引き取り、焼却処理する費用に9400万円を投じた。2022年度は沖縄防衛局が、今回とは別の格納庫の大扉の補修工事を発注し、1億7600万円を負担していたことが本紙の調べで分かっている。 過去の費用負担について、日本側は「緊急的な措置」としていた。 「緊急措置」だったはずが、なぜ3年もたった今になって、また負担することになったのか。

◆取り決めの効力いつまで?

沖縄防衛局は、今回の費用負担を「日米間で継続的に協議した結果」とする。 日米間の取り決め内容をまとめた書面には「当面の対応」と記されているだけで、いつまで拘束力があるかは明確に規定していない。

米軍普天間飛行場のPFOSなどを含む汚染水の対応について日米間で取り決めた内容をまとめた書面

沖縄防衛局は、取り決めについて「2021年当時において、日米間で一致した内容をお知らせしたものであり、当該文書は日米間で何らかの効力を有する類いのものではない」と説明する。 その上で「現時点で、PFOS等を含む水への対応の一環として、予定している補修は他にない」と答えた。 東京新聞は、米軍基地のPFAS汚染対策費を今後も日本側が負担する可能性があるのかどうか沖縄防衛局に質問したが、それに対する回答はなかった。 米国内ではPFASの規制を強めている。 米海兵隊太平洋基地に、普天間飛行場の汚染対策を自国で行わない理由を尋ねたが、9月22日までに回答はなかった。     ◇

◆汚染対策肩代わり、恒久化する恐れも

基地問題に詳しいジャーナリストの布施祐仁さんの話 そもそも日米地位協定では、基地の維持費は米軍の負担と定めており、在日米軍の駐留経費「思いやり予算」も当初は暫定的、限定的とされた。ところがズルズルと拡大解釈され、今では維持費の多くを日本が負担している。 こうした経緯を見れば、PFASの汚染対策もいったん日本が負担すると、前例となり恒久化する恐れがある。 ドイツのように日米間で米軍基地の環境汚染除去の費用負担について協定を結ぶべきだ。日本が負担し続けると米軍の汚染防止への意識も高まらず、環境汚染抑止の点からも、米軍に責任を求めていく必要がある。

米軍普天間飛行場 宜野湾市の中心部にある米海兵隊の基地。日米両政府が1996年に基地返還に合意した。移設先の名護市辺野古は軟弱地盤の対応で難工事が予想され、いまだ返還の見通しは立っていない。近年はPFASによる環境汚染も問題となっており、2020年4月にはPFASを含む泡消火剤が基地外に流出する事故が起きた。基地周辺からは今も、国の暫定指針値を超えるPFASが検出されている。



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