岸田文雄首相の後任を決める自民党総裁選は27日、党本部で投開票され、新総裁に石破茂元幹事長(67)を選出した。1回目の投票で高市早苗経済安全保障担当相(63)が1位、石破氏は2位だったが、上位2人による決選投票で逆転し、高市氏を破った。10月1日召集の臨時国会で、第102代首相に指名され、新内閣を発足させる。(長崎高大)

自民党総裁選後の両院議員総会で整列し、笑顔を見せる(左から)高市経済安保相、岸田首相、石破茂新総裁、林官房長官、上川陽子外相=27日、東京・永田町の党本部で

◆石破茂新総裁「公平公正で常に謙虚な政党をつくりたい」

 党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治の信頼回復が総裁選の主要論点だった。石破氏は新総裁選出後の記者会見で「あらゆることに公平公正で、常に謙虚な政党をつくっていきたい」と訴えた。  閣僚・党役員人事については「まだ白紙。厳しい状況を打開し、それぞれの役割を適切に果たせる人事をしたい」と述べた。これまで重視されてきた派閥間のバランスに関し「派閥はなくなったのだから、どの派閥から何人と考えることはない」とした。幹事長や政調会長などの党役員人事は、首相指名を受ける10月1日より前に行う意向も示した。  衆院解散・総選挙の時期については「野党と論戦を交わした上で(国民に)判断してもらいたい。なるべく早く審判を受けなければならない。二つを合わせて適切な時期を判断する」と述べるにとどめた。  石破氏の総裁選への立候補は5回目。政策では「日本経済の起爆剤」としての地方創生や、災害対策強化のための「防災省」創設などを掲げた。総裁選で主張した日米地位協定の見直しに関し、27日の会見では「外務省、防衛省とよく確認しながら具体化していきたい」と述べた。

◆鳥取県出身の総裁は初めて

 裏金事件に端を発する派閥解消の影響を受け、推薦人が必要な立候補制となった1972年以降では過去最多の9人が立候補する混戦となった。  1回目の投票は高市氏が181票で1位、石破氏が154票で2位だった。上位2人による決選投票は石破氏215票、高市氏194票で21票差だった。  新総裁の任期は2027年9月までの3年間。鳥取県出身の総裁は初めて。   ◇   ◇   ◇

◆<記者解説>「看板」のかけ替えで終わりかねない

自民党の新総裁に選出され、拍手に応える石破茂氏=27日、東京・永田町の党本部で(佐藤哲紀撮影)

 自民党総裁選は、石破茂元幹事長が新総裁に選出されたが、1回目の投票では高市早苗経済安全保障担当相が1位となり、決選投票でも石破氏と互角の票を得た。派閥の政治資金パーティー裏金事件の真相解明に極めて消極的だった高市氏が、国会議員や党員の厚い支持を受けたことは、事件への反省に乏しく、世論とかけ離れた党内の「本音」を浮かび上がらせた。  今回の総裁選では、裏金事件への党の対処が適切だったのかどうか、各候補が論戦を深めるべき機会だった。だが、石破氏や高市氏を含め、選挙戦での9候補の発言からは強い危機感は感じられず、「時間がたてば国民は忘れる」との思いが透けて見えた。  立候補に必要な推薦人20人のうち、政治資金収支報告書に不記載があった「裏金議員」が13人に上った高市氏が僅差の2位となったのは、裏金事件が軽視されている証左だ。高市氏は、再調査や処分のやり直しの可能性を否定してきた。

自民党の総裁室に入る石破茂新総裁=東京・永田町の党本部で(佐藤哲紀撮影)

 自民党は安倍政権下、森友・加計(かけ)学園問題や桜を見る会を巡る問題などでも事実関係の検証や国民への説明責任をなおざりにしてきた。裏金事件を巡る対応と地続きと言える。  27日の会見で石破氏は「ルールを守る政党でなければならない」と強調した。政治の公正性や透明性が揺らぐ事態に対し、その場しのぎで乗り切る姿勢を改めない限り、党の体質は根本的に変わらない。今回の新総裁誕生も単なる「看板」のかけ替えに終わる。  石破氏はその審判を遠からず踏み切る衆院解散・総選挙で受けることになる。(中根政人) 

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