安倍・菅・岸田と12年続いた「一強」体制が何をもたらしたのか。それは、国民の中に不安が残る政策を熟議を尽くさずに決めてしまう、民主主義を軽視する政治手法だと思う。「一強」体制と距離を置いてきた石破茂首相には、民主主義の立て直しが求められる。

衆院本会議で第102代首相に指名され、起立する自民党の石破茂総裁(後列右)=国会で(池田まみ撮影)

 安倍内閣は2015年、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法を成立させた。「違憲」と指摘する世論の反対を押し切り、歴代内閣の見解を解釈改憲で変更する異例の政治手法だった。森友・加計学園、桜を見る会の問題でも、政治の私物化との疑問に答える姿勢を欠いた。その後の菅内閣も日本学術会議の会員候補の任命拒否などで国民の政治不信を高めた。  岸田文雄氏はそんな政治姿勢を「民主主義の危機」と指摘し、「聞く力」を掲げた。だが、アベノミクスで拡大した格差に苦しむ国民が求め、岸田氏自身も強調した「分配」はすぐに影を潜め、高齢者が心配している現行保険証の廃止方針も変えなかった。安全保障では専守防衛を形骸化させる敵基地攻撃能力(反撃能力)保有も決めてしまう。岸田氏も「安倍路線」の踏襲者となっていたのだ。

3年前の自民党総裁選、菅首相㊧に花束を贈り握手を交わす岸田文雄氏。「聞く力」を掲げ新総裁に選出されたが、「安倍路線」の踏襲者となった=2021年9月29日、都内のホテルで

 派閥の裏金事件が決定打となり、自民党政治に対する国民の信頼は地に落ちている。「顔」を替えた石破内閣の発足で負の遺産が清算されるわけではない。  自民党内で「一強」に異を唱えてきた石破氏には、徹底した議論を政治に取り戻す責務がある。賛否は別にして、北大西洋条約機構(NATO)のアジア版構想や防災省創設は、国民の理解と納得が欠かせない。  石破氏は9日に衆院を解散する。国民の信を問う衆院選を否定はしないが、熟議に背を向けた政治姿勢を取るなら、国民から厳しい審判を受けることになる。 

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