グッチ。写真はミラノの店舗(写真:ロイター/アフロ)

グッチの2024年1~3月期の中国市場での販売が大幅減少し、景気低迷への懸念が広がっている。

一方、2024年4月16日に最新の決算を発表したルイ・ヴィトンなどを傘下に持つLVMHは、中国市場の売り上げが減ったにもかかわらず、「中国人の需要に非常に満足している」と強気のコメントをした。いったいどういうことなのか。「中国人の消費」の温度感を知る鍵は日本市場にあった。

グッチやサン・ローランを傘下に持つ仏高級品メーカー大手ケリングは、4月23日(現地時間)、2024年1~3月の売上高が前年同期比11%減少し、45億400万ユーロ(約7480億円)に落ち込んだと発表した。主力ブランドのグッチの売上高が21億ユーロ(約3500億円)と、同21%減少したことが響いた。

ケリングは3月19日に「中国市場での販売不振」を理由に業績が悪化しそうだと明かし、株価が急落した。4月23日には2024年上半期の営業利益見通しを、前年同期比で40~45%減少すると下方修正し、市場の動揺が続いている。

LVMH、中国市場減収でも「喜ばしい」

ルイ・ヴィトンやティファニーを傘下に持つ世界最大の高級品グループLVMHが4月16日に発表した同期の決算でも、売上高は前年同期比2%減の207億ユーロ(約3兆4300万円)、日本を除くアジアの売上高は同6%減少した。

経済力が一定に達した市場を中心に展開するラグジュアリーブランドにとって、「日本を除くアジア」は中国が大部分を占める。

それでもジャン・ジャック・ギオニ最高財務責任者(CFO)は中国での需要に「非常に喜ばしいと感じている」と述べた。

ギオニCFOはアジア市場(日本を除く)が前年同期比減となった理由を、「中国で2022年末にゼロコロナ政策が終了し、ロックダウンも解除されたため、2023年1~3月の数字が非常によかった。その反動減だ」と説明した。

たしかにLVMHの2023年1~6月のアジア地域(日本を除く)の売り上げは前年同期比34%伸びている。

LVMHのアジア地区(日本を除く)の店舗数は昨年12月末時点で1年前から174店舗増えて2003店となり、世界で一番多い。急激な成長が一服したというわけだ。

日本市場が伸びているカラクリ

LVMHが中国人の需要が強いと考える根拠は、中国外の市場にある。

同社は「2024年1~3月の中国人によるルイ・ヴィトンのファッションとレザーグッズの世界需要が前年同期比約10%増加し、特に日本市場の伸びに影響した」と分析した。事実、日本市場の売上高は同32%増えた。

中国本土の消費者が海外旅行を再開したことで、免税などを受けられる国外で買い物をする動きが加速し、円安が進み割安感が際立った日本での購入が増えたということだ。

ギオニCFOは「(グローバルでの価格のバランスを取るため)日本では昨年も何度も価格を引き上げた」とも語った。

LVMHは2023年の決算でも、中国人のインバウンド買いにしばしば言及していた。2023年4~6月の売上高は全体の4分の1を占める北米市場が1%減少したが、日本を含めたアジアが補った。この時の日本の売上高は前年同期比29%、アジア(日本を除く)は同34%上昇した。

中国のルイ・ヴィトンの店舗(写真:アフロ)

中国現地メディアによると、アジア(日本を除く)以外の売上高に占める中国人の消費額は、2022年の15%から2023年は30%まで伸びた。

特に距離的に近い日本への影響は大きく、「中国人旅行者のヨーロッパでの消費はまだ回復していないが、日本では急回復しており、コロナ前の2019年の水準に近づいている」と語っていた。

バーキンで知られるエルメスも、売上高、純利益ともに2ケタの伸びを示した同社の2023年12月期の通期決算からは、LVMHと近しい動きが見える。

売上高を地域別にみると、欧州、アメリカ、アジア太平洋地域(日本を除く)の売上高の伸びはいずれも20%前後で、日本は25.7%増と突出している。

エルメスは中国でも好調を維持し、売上高の6割近くをアジア太平洋地域で稼いでいる。

日本、中国ともに直近2~3年で何度も値上げしているが、中国では「今が一番安い」「中古価値も上がる」という受け止め方をされ、逆風になっていないどころかロレックスのように投資価値が高まっている。

もう一度ケリングに戻ってみよう。

売上高の半分近くを占めるグッチは、2024年1~3月決算において、中国だけでなく西欧(15%減)と北米(18%減)も2ケタ減となっている。日本は唯一伸びており、前年同期比7%増だ。

サンローランの売上高は日本を除くアジア太平洋が前年同期比12%減、西欧が横ばい、北米が同6%減で、日本は同34%増。決算資料の報告にも「日本で力強い成長」と記載されている。

ボッテガ・ヴェネタは日本を除くアジア太平洋が4%減、日本は7%増だが、西欧(14%増)と北米(25%増)の方が伸びている。

ケリング傘下の主要3ブランドすべてでプラスになっているのは日本だけだ。その要因が円安によるインバウンド需要で、中国人によるものだと考えるとつじつまが合う。

グッチ苦戦の本当の理由

では、グッチの中国市場での不振の本当の原因は何だろうか。

ファッション関係者なら知っているのだろうが、同ブランドはこの数年経営が混乱し、立て直しのフェーズにある。

前述したように販売減は中国に限ったことではなく、円安の恩恵を受けている日本以外は等しく苦戦している。

2023年9月には低迷を受け、グッチのCEOが交代した。2010年代後半の成長を牽引してきたアレッサンドロ・ミケーレ氏が2022年にクリエイティブディレクターを退き、後任にサバト・デ・サルノ氏が就いた。

ラグジュアリーブランドのバッグを所有している中国人30代女性数人に聞いたところ、「グッチは若者向けというイメージがあり、自分の年齢に合わない」「2015年ごろに大きなブームがあったが、デザインが尖りすぎていて、今となっては使いにくい」との答えが返ってきた。

中国の景気は確かに低迷しており、先行きの不安感も高まっている。だからこそ「価値が簡単に下がらないもの」「長く使える上質なもの」を、「最もお得なチャネルで」買うようになっている、というのは、中国の小売り関係者の多くが指摘している。

中国市場は「二極化」している

ブルームバーグの報道によると、ケリングのアルメル・プルーCFOは「中国市場は超高級品か手頃な製品のいずれかを求める二極化が進んでいる。ほぼ中間に位置する当社はこの二極化の恩恵を受けていない」と述べたという。

「二極化」は最近の中国マーケットを語る上での重要なキーワードだ。LVMHとエルメスが幾度にも及ぶ値上げでも失速せず、2024年も中国での出店を拡大していることからも、ラグジュアリーブランドの中でも、「超高級ブランド」と「それ以外」に分かれているということだろう。

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