3年ぶりの短期決戦となる衆院選。派閥の政治資金パーティー裏金事件で自民党が批判にさらされる一方、野党も環境の激変に見舞われている。
2021年の前回選で躍進した維新。推進してきた万博の経費増や前兵庫県知事のパワハラ問題などで逆風に見舞われており、自民を離れた票の受け皿になれるか未知数だ。
満員となった県コンベンションセンター(奈良市)のホールに君が代の歌声が響いた。1区の新人、高野敦氏(49)の陣営が9月末に開いた演説会。こうした演説会での国歌斉唱は珍しく、号令で会場全員が起立すると、戸惑った様子で周りを見回す聴衆もいた。陣営幹部は「幅広く支持を集めたいのに、ハードルを上げてしまった。党の行事では国歌斉唱は普通だが、聴衆は党員だけではない。経験不足のスタッフが多すぎた」と苦い表情を見せた。
1区では立憲前職の馬淵澄夫氏(64)が初当選した03年以降、7回の選挙で自民候補を相手に6回の勝利を飾った(落選した17年もその後繰り上げ当選)。リベラル層にとどまらず党派を超えて支持を得ており、党名より候補者名を前に出した戦い方から「馬淵党」と呼ばれる。馬淵氏も「小さな集まりで直接対話を繰り返し、党を超えた信頼を得てきた」と自信を見せる。
だが21年の前回選で、1区の維新候補は大方の予想を上回る6万2000票を獲得。馬淵氏は小選挙区で快勝したが、共産との野党協力で期待された上積みはかなり削られた。
維新が新たに食い込みを狙うのは裏金問題で自民から離れる票に加え、馬淵氏の支持層の多くを占めるリベラル寄りの無党派層だ。馬淵氏陣営は「主要な相手は自民前職」と話すが、高野氏の演説会で質問に立った聴衆の1人は「自分は元々馬淵氏の支援者。この会場内に馬淵シンパは何人もいる」と公言した。馬淵氏は今回、共産との共闘が難しいこともあり、自民候補に約9300票差で競り勝った前回以上に苦しい戦いになる可能性がある。
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また維新は今回、自民前職が圧倒的に強い2、3区にも立候補予定者を擁立した。前回は両区いずれにも候補者を出せない中、比例票ではそれぞれ5万票以上を獲得。県内でその後、党公認知事が誕生したことも考慮した。
「勢いだけで勝てるほど甘い相手ではない」と2、3区の維新陣営幹部は口をそろえる一方、「相手の得票の70%まで取れれば、比例復活の目はある」とひそかな期待を抱いている。
前回選で比例近畿ブロックとして10議席を獲得した維新は今回、大阪の全19区のうち18区で比例代表との重複立候補を認めない方針を決めた。奈良の陣営幹部らは「前回は相手の得票の半分ほどでも復活できた候補者もいた。仮に維新の比例の議席数が半減したとしても、票を多く取れば生き残れる可能性が高まっている」と話す。【稲生陽】
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