主要7カ国(G7)は19日、イタリア・ナポリで初めての国防相会合を開いた。ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢に加え、インド太平洋地域の安全保障問題について議論する。防衛装備品の生産協力や規格の共通化など、サプライチェーン(供給網)を強くする方向性も擦り合わせる。
中谷元防衛相、オースティン米国防長官ら各国の国防相は、ブリュッセルで開いた北大西洋条約機構(NATO)の会合に続き、G7の協議に臨んだ。
ウクライナ、中東、アフリカ、インド太平洋、防衛力の5つのテーマを話し合い、協力のあり方に関する共同文書をまとめる。
G7は石油危機後の経済不況への対応を協議する目的で1975年に開いた日米欧6カ国の首脳会議(サミット)が源流だ。それ以来、半世紀のあいだ様々な分野の閣僚会合で国際協調を進めてきたが、国防相会合は開かれてこなかった。
サミットや外相会合などで地域情勢を扱っても、元々の経済中心の枠組みを重視して防衛協力の議論には踏み込んでこなかった。
国防相会合の開催は今年の議長国イタリアが提案した。同国はG7議長国のホームページで「防衛や安全保障の重要性はますます高まっている。急速に変化する世界で、最も重要なテーマとして議論することが適切だ」と指摘した。
「世界的な紛争と不安定な地域について話し合い、政治目標を定義して行動指針を共有する」と強調した。
G7国防相はウクライナ侵略に関し、防衛装備の提供といった具体策も協議する見通しだ。G7各国はそれぞれ、ウクライナと10年間の安全保障協定を結んでいる。防衛装備や資金を供与する取り決めで、協定に沿って支援する。
米欧はこれまで戦闘機や対戦車ミサイルなど、実戦で投入可能な武器をウクライナに提供してきた。日本は国内の規定で武器は出せないが、自衛隊車両の譲渡や人道援助、資金面での協力に努めてきた。
米欧が軍事支援を継続する一方、ミサイルや弾薬の世界的な不足が深刻になっている。NATOは加盟国間で共通の弾薬基準を確立する取り組みを強化する方針だ。米国の武器不足を補うため、日米でミサイルの共同開発や生産に乗り出すことも決まった。
日本は防衛装備品を米国以外でも欧州の同志国などに輸出できる仕組みを整えた。G7諸国では英国、イタリアと3カ国で次期戦闘機を開発する計画がある。
G7域内で同じ装備品を使う環境を徐々に整えて、安保環境の変化に対応できる枠組みとして機能させる狙いがある。
インド太平洋地域の議論は中国の海洋進出や軍備増強を念頭に置く。
日本はG7唯一のアジアの国として、中国や北朝鮮の軍事動向を米欧諸国に説いてきた。米欧の関心が地理的に離れたアジアの情勢に向きにくいなか、新型コロナウイルス禍に端を発した供給網の問題やウクライナ侵略が転機となった。
中国の経済的威圧の問題や東・南シナ海での一方的な現状変更の試みが世界共通の懸念事項として捉えられるようになった。中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が武力統一を否定しない台湾周辺の環境は厳しさを増している。
G7は2021年の英国でのサミットで日本の提案で初めてインド太平洋情勢をテーマに取り上げた。台湾海峡の平和と安定の重要性を確かめ、それ以降のサミットでは首脳宣言で毎回確認するまでになった。
中国の核戦力の急速な増強もG7の懸案事項だ。国防相会合では最新の中国軍の動きなどについても意見を交わす。
11月の米大統領選挙を前に、G7が国防相会合を開催する意味合いも大きい。民主党候補のハリス副大統領と共和党候補のトランプ前大統領のいずれが勝利しても、ウクライナ支援を継続していく合意を確認する場となるためだ。
トランプ氏はウクライナ支援に消極的とされる。大統領在任中にG7の枠組みを軽視し、足並みの乱れが指摘された。
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