「中山間地域、財政力が弱い所が被災することがいかに大変かを痛感した。(被災から)数時間のうちにコンテナトイレやキッチンカーが来る体制には遠い」。衆院解散方針を表明後の5日、石破茂首相は石川県輪島市の避難所を視察すると、問題意識と防災庁創設の持論を訴えた。衆院選では自民党に加えて公明党、れいわ新選組、社民党も防災庁や防災省の設置を公約する。
能登半島の断水で問題になったような水道管の耐震化や避難所設備の充実といった平時からの備えは、国庫負担もあるが基本的に自治体が担う。復旧・復興についても同様だ。
大災害が起きれば、国でも内閣府防災担当が緊急対応や、その後の復旧を担う。だが平時は防災計画の推進や普及啓発を役割としており、その規模は職員約150人、一般会計約70億円と一つの町程度。地域格差を補うには不十分という見方がある。
そこで浮上するのが防災庁構想だ。岡本全勝・元復興庁事務次官は「予算と人員を拡充して防災庁を作れば、国がより手厚く支援できるようになる。温かい食事の提供など避難所環境も充実するだろう」と話す。内閣府防災担当には局長級の統括官が1人しかいないため新組織での充実を提案する。国土交通省の防災事業担当者も「人員や予算の受け皿となる組織ができると、持続的な対応ができる」と肯定的だ。
ただ災害対応を担う組織を作る議論は過去にも浮かんでは消えてきた。
旧民主党は2009年衆院選のマニフェストで「危機管理庁」の創設を掲げた。政権交代を果たしたが議論は深まらず、10年の参院選マニフェストには記載されなかった。
14年衆院選では自民が、複合災害などで自衛隊、警察、消防などを動かせる「緊急事態管理庁」の設置検討を公約に盛り込んだ。だが検討を行った副大臣会合は15年に「積極的な必要性は直ちには見いだしがたい」と報告をまとめた。既存の枠組みでも関係機関が連携できているとし、組織が肥大化する懸念を挙げた。全国知事会は18年から防災省の創設を政府に提言している。
霞が関の官僚からは冷めた声も漏れる。
「新省庁を作るのはハードルが高い。一つの組織でできることは限られ、各省と調整することになるので今と変わらない」と内閣府職員。気象庁職員は「国民向けのパフォーマンスだ。本当に予算が増え、実効性のある組織を作ることができるのか」と疑問を投げかける。【島袋太輔、木原真希】
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