豊島区役所に設置された衆院選の期日前投票所(22日、東京都豊島区)

衆院選(27日投開票)で、各党が期日前投票の定着を前提とした選挙戦術の練り直しを迫られている。首相就任から戦後最短となる解散・総選挙となった影響で、期日前投票をした有権者数が前回に比べおよそ2割も減ったためだ。各陣営は前半戦での組織票固めができず、期日前投票の呼びかけを続けている。

総務省は21日、投開票の1週間前である20日までに期日前投票をした人が467万人だったと発表した。前回2021年衆院選の同時期の566万人から100万人ほど減った。各都道府県別に見ると、静岡県や山口県などは前回の半分程度、東京都や大阪府も7割弱にとどまった。

主な原因とされるのが、投票所入場券の発送の遅れだ。投開票は石破茂首相(自民党総裁)の就任から26日後と戦後最短で、地方自治体の準備が追い付かなかった。入場券なしで投票することも可能だが、制度が周知されていないことが指摘される。

兵庫県三田市の選挙管理委員会は、期日前投票は16日から始まっているものの発送が完了するのは22日ごろだと説明した。「急な衆院の解散・総選挙の執行により準備が間に合わない」と理解を求めた。

「政治とカネ」の問題への不満から投票を控えたり、投票先を決めかねたりする動きも影響しているとの見方もある。自民党関係者は「おきゅうを据えるために投票しないとの声を聞く」と話す。

公明党関係者は「期日前投票は前回の半分以下となる見込みで、困る」と嘆く。集票力のある支持母体を持つ公明は期日前投票が得票に占める割合が高い傾向にある。支援者にはいつ投票に行けるかなどを尋ね、早く済ませるよう促している。

期日前投票は投票率の低下に歯止めをかけるため、03年の公選法改正で導入された。仕事や冠婚葬祭だけでなく、旅行やレジャーなどが理由でも利用できる。

期間の延長や投票所数の拡大で利便性が高まり、期日前投票の利用は17年に2137万人まで増え、衆院選としては過去最多になった。21年も2057万人と高水準を保ち、有権者の2割程度が活用している。

こうした状況を踏まえ、近年は各陣営が期日前投票を確実に利用してくれる熱心な支持者向けの大規模集会を早めに開き、後半戦は浮動票取り込みに重点を置くといった選挙戦術が一般的になっていた。

今回は後半戦に入っても、期日前投票に目配りせざるを得ない。

豊島区役所に設置された衆院選の期日前投票所(22日、東京都豊島区)

首相は20日、和歌山県で候補者の応援演説で「ぜひ今日帰ったら、期日前投票をお願いする。選挙を決めるのは、行くか行かないか決めてない、誰に入れるか決めてない人たちだ」と訴えた。

ある閣僚経験者の陣営はSNS(交流サイト)のほか、街頭演説でも毎回期日前投票するように声をかける。陣営の関係者は「人が集まりやすい駅前のスーパーなどで演説し、買い物客をターゲットに誘導している」と話す。

野党は期日前投票の低迷は、無党派層の関心低下によるものではないかと危機感を持つ。立憲民主党の野田佳彦代表は22日、埼玉県内の複数箇所で街頭演説に立った。期日前投票を済ませるよう呼びかけた。

さいたま市選出の立民県議は「前回は期日前投票所に行く車の渋滞で苦情が出たのに、今回はない」と有権者の熱の低さに懸念を示す。

立民候補の陣営は「投票所は20時まで開いている。入場券がなくても本人確認で投票できる」と有権者に語りかけたり、「#毎日が投票日」というハッシュタグで発信したりしている。

国民民主党も期日前投票での投票を街頭やSNSで伝える。玉木雄一郎代表は21日「小選挙区に候補者が出ていなくても比例で投票できることが実はあまり知られていない」と話した。選挙制度の周知と期日前投票による自党への投票呼びかけを「徹底していきたい」と述べた。

人口減少による、投票所の統廃合への対応も課題になっている。前回21年の衆院選では全国およそ50の地域で「移動期日前投票」が実施された。

過疎地域などに出向いてバスの中といった臨時の投票所を開設し、交通手段がなく遠方に赴けない高齢者の投票機会の確保につなげる。今回は石川県能登半島の被災地でも開設された。高校に出向いて、投票権を持つ18歳になったばかりの若者に投票を促す場合もある。

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