多くの候補者が街頭演説の場所に高田馬場駅前を選んだ(21日、東京都新宿区)

自民党、立憲民主党の前職同士が議席を激しく争ってきた東京1区に日本維新の会の新人が割って入ろうとしている。参院からくら替え出馬した音喜多駿氏だ。

「音喜多駿は維新の頭脳だ。未来の政治家のモデルになる」。維新の馬場伸幸代表は公示の15日、1区内の高田馬場駅前で第一声をあげた。前回2021年衆院選で初めて同区に擁立した前職は東京の他区に移し、政調会長の音喜多氏に白羽の矢を立てた。

維新は党発祥の地である大阪以外の選挙区に多くの候補を立て、比例代表票を近畿ブロック以外でも掘り起こし、全国政党に脱皮する戦略を描く。東京の選挙区での勝利はその一里塚だ。

21年衆院選は大阪の小選挙区で擁立した候補者が全勝するなど議席を公示前の11から41に増やした。東京は比例代表の復活当選にとどまった。

音喜多氏は23年9月、東京1区へのくら替えを発表した。党幹部は「東京のシンボルとなる選挙区で、維新の全国波及に向け極めて重要だ」と意気込んだ。

そのころ、維新の党勢は増していた。22年参院選も議席を伸ばし、勢いは23年の統一地方選に続いた。各種世論調査で政党支持率は野党第1党の立民を上回っていた。

首都中心部の東京1区は無党派層の動向が勝敗を決する。現行選挙制度を導入した1996年以来、自民と立民(前身の民主党を含む)が議席を分け合ってきた。

維新には無党派層への切り込みで成功体験がある。21年衆院選は大阪府・市で実行した行財政改革や子育て支援策などの実績を掲げて票を取り込んだ。

目算は狂い始める。23年末に明るみに出た自民の政治資金問題に起因する政治資金規正法の改正で立場が一貫しなかった。推薦して兵庫県知事に就いた斎藤元彦氏のパワハラ疑惑への対応でも後手に回った。

いずれも党の統治(ガバナンス)に疑問符をつけた。選挙前から政党支持率は立民を下回るようになり、選挙戦でも苦戦を強いられる。

音喜多氏の陣営は公示後、選挙ポスターに「負担を減らす。手取りを増やす」と書いたシールを上書きする形で貼った。

「手取りを増やす。」は国民民主党が掲げるスローガンだ。現役世代重視を訴える維新と重なる政策は多く、支持が流れている可能性がある。

1区に国民民主の候補はいないものの、同党に比例票を奪われれば、音喜多氏が比例代表で復活当選することさえ危うくなる。

1区も自民の政治資金問題が影を落とす。関連した山田美樹氏は比例との重複立候補を認められなかった。陣営幹部は「後援会にもう一度問題について説明してくれと求められた」と明かした。自民支持層の引き締めに必死だ。

立民の海江田万里氏の陣営は「政治とカネの問題は聴衆の受けが明らかにいい。戦うべきはあくまで山田氏だ」と話す。音喜多氏も政治資金問題を批判するものの風に乗れない。

10年に大阪で産声を上げた維新は12年衆院選で国政に進出した。音喜多氏の演説を聞いた学生は「小学生の時からある既存政党のイメージだ」と語る。維新が全国政党に成長するには政党の「賞味期限」を乗り越える必要もある。

◇衆院東京1区立候補者
 新藤 伸夫 75 政治団体代表 諸新
 音喜多 駿 41 党政調会長 維新
 山田 美樹 50 元環境副大臣 自前
 新垣  宏 80 元会社役員 無新
 中野  顕 60 党地区役員 共新
 海江田万里 75 元衆院副議長 立前
 桜井 祥子 40 参政党員 参新
 佐藤沙織里 35 公認会計士 無新
 高木 寛史 40 みんな党員 み新
(注)届け出順。敬称略

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