衆院選は27日に投開票日を迎える。午後8時の投票締め切り後、各地で選挙管理委員会による開票作業が始まるが、メディアは午後8時になると同時に、「当選確実」となった候補者の名前を一斉に報じる。業界用語で「当打ち」と言われるもので、激戦の選挙区についても「開票率30%」など開票途中で当落結果を伝えることがほとんどだ。どうやって開票終了前に当選確実と判断しているのか。その舞台裏を紹介する。
午後8時の「当確」、出口調査と取材で判断
まず、重要なのは事前の準備とデータだ。
全国289小選挙区について、大手メディアは選挙期間中にスマートフォンなどを通じて有権者の投票行動を探る世論調査を実施している。これに加えて各陣営の街頭演説への聴衆の集まり具合、各候補者を支援する団体の動き、政党幹部や陣営の見方を取材し、各選挙区の情勢把握に努めている。
そして投票日の当日、投票所から出てきた有権者に投票先を聞く「出口調査」を実施している。最近は期日前投票をする人も増えているため、出口調査は期日前にも行われている。
こうした出口調査のデータと事前取材に食い違いがなく、当選が有力視される候補を次点の候補が逆転するのは不可能と判断した場合、午後8時の投票締め切りと同時に当選確実と報じているわけだ。
接戦の選挙区、記者は双眼鏡で取材
問題になるのは、接戦となっている選挙区だ。たとえば、出口調査でA候補が得票率5ポイント差でB候補をリードしていたとしても、僅差であるため、これをもってA候補を当選確実と報じるのは難しい。出口調査はあくまでも一部の投票所で行う抽出調査であるため、投票結果と逆転するケースもたまにある。
こうした場合に重要となるのが開票所での取材だ。開票所は、体育館や公民館に設けられることが多い。各地の投票所から投票箱が運び込まれ、開票時間になると、大きな作業台の上で投票箱が一斉に開かれる。
最初の勝負は、投票箱が開かれて投票用紙が作業台に無造作に置かれた瞬間だ。このとき、記者たちには双眼鏡と脚立が不可欠になる。脚立に上って作業台の上から投票用紙を双眼鏡でのぞき込み、書かれている候補者名を次々に読み取る。業界では「バードウオッチング」と呼ばれる取材だ。ここで得られた各候補の得票割合は、当打ちを判断する材料の一つになる。
さらに開票作業が進んでいくと、投票用紙は候補者ごとに数百票の束にまとめられ、集積台に積まれていく。これをチェックすることで、選管の発表前に得票状況を確認することが可能だ。集積台は、記者たちのいる席から離れた場所に設けられることが多いため、この際も双眼鏡は必須となる。
こうしたさまざまな「根拠」を集め、当選が間違いないと判断できたときに、メディアは当打ちをしている。
開票中のトラブルはつきもの
どうしてメディアはそんなに急いで当打ちをしなければならないのか。
それは開票終了が早くても深夜、場合によっては翌日未明にずれ込んでしまうためだ。開票終了を待っていると新聞は翌日の朝刊の締め切りに間に合わないし、テレビは夜のニュースで伝えるのが難しくなる。そこで、取材資源を投じて当打ちにいそしんでいる。
しかし、さまざまな準備をしても、当日にトラブルはつきものだ。各地の選管も入念な準備をしているが、ミスが起きることがある。
投票用紙の束がまるごと行方不明になる、ある政党への投票を別の政党への投票としてカウントする……。これまでの選挙で実際にあった間違いだ。このため職員が会場をしらみつぶしに捜したり、一度集計した投票用紙を数え直したりし、開票が何時間もストップしてしまうこともある。
開票が進まないと、接戦区では当打ちが難しくなる。開票トラブルがなければ全議席の当打ちを翌日の新聞に掲載できたのに、トラブルによって一部の選挙区の結果を伝えられなかった――。そうした悔しい経験を持つ記者も少なくない。
日本の行く末を占う総選挙まであと1日。全465議席(小選挙区289、比例代表176)は28日に確定する見通しだ。【小林慎】
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