教団の全面支援が失せた総選挙

投票日の4日前、10月23日に私が「文藝春秋」電子版に寄稿した「全公開『極秘 旧統一教会内部資料』2021年衆院選、旧統一教会に支援された自民候補者実名リスト」が公開された。

内部資料から、教団側が小選挙区で強くない自民党候補や、比例復活でぎりぎり当選ラインに届く同党候補に組織的な選挙応援を行ってきた実態を検証したものだ。今回の総選挙で当落線上の自民候補が軒並み落選し、比例復活も限られていたのは、旧統一教会が自民党候補者への全面支援から手を引いたことが響いたと推測される。

安倍晋三元首相への銃撃事件によって突如その蜜月関係が終わった旧統一教会と自民党だが、過去の歴史を紐解くと、第2次安倍政権が発足した後に関係性が強化されていったことが分かる。旧統一教会と自民党の関係の実際のところは完全な解明には至っておらず、新たな証拠や接点も発覚している。

旧統一教会が抱える社会問題、そして自民党との関係を歴史的に振り返っておこう。

1954年、韓国で教祖の文鮮明が「世界基督教統一神霊協会」の名で開いたこの教団は、朴正煕軍事政権の庇護の下で勢力を伸ばし、反共産主義を旗頭に「勝共運動」を展開する。日本進出は1959年。安倍の祖父である岸信介元首相らの後ろ盾で国際勝共連合を設立した。

だが1984年、天皇陛下役に扮した⽇本の幹部が⽂鮮明に背景する秘密儀式があることを教団系メディアの世界⽇報の元編集局長が暴露、多くの右翼団体が旧統⼀教会の反⽇性に気付き勝共連合を⾒限った。一方、政治家は秘書や選挙運動員などを派遣してくれる勝共連合を重宝し、中曽根康弘政権下の1986年衆参ダブル選挙で、文鮮明教祖は60億円を投⼊し、130⼈の勝共推進議員を当選させたと⾔われる。

ところが、霊感商法や合同結婚式、正体を隠した偽装伝道などが社会問題化し、保守派の政治家も距離を置くようになった。すると勝共連合は反ジェンダーの運動などを通して保守系政治家の再取り込みを図る。2016年には世界規模の国会議員連合組織を創設している。

裏金、教団問題ともに源流は安倍派

岸信介の孫である安倍自身は当初、旧統一教会と一定の距離を置き、警戒していた節がある。2005年に国政進出の相談に訪れた人物が教団と親しくしていることを知り、「あの団体はダメだ。あんな団体と仲良くしてはいけない」と発言していたとの情報を私は得ている。

その⼀⽅で、当時の教団内部資料には反ジェンダー⼯作を報告する相⼿として安倍の名前が出てくる。安倍は旧統一教会を含めた宗教右派、伝統的家庭観を持つ強硬右派に強く支持されてきた。

安倍には反日的な教義を内包する教団への嫌悪感もあったのだろう。だが第2政権発足後最初の国政選挙である2013年参院選において、教団側に組織票の支援を依頼する。当時、私が入手した教団内部FAXには「首相からじきじき依頼」として安倍の肝いり候補者への支援要請の文言があった。その裏付けとなったのは朝日新聞が9月17日にスクープした2013年の自民党総裁応接室における教団トップらとの面談写真だ。

以後の国政選挙において旧統一教会は安倍政権に多大な「貢献」をする。

安倍の最側近で2013年の総裁応接室での密談に陪席した萩生田光一元政調会長は、2014年の衆院選の前に地元八王子市内で開かれた教団の講演会で来賓として挨拶した。翌2015年にはやはり安倍の側近だった⽂科相(当時)の下村博⽂が統⼀教会の法⼈名変更のために⽂化庁へ圧⼒を掛けたと指摘された。萩生田、下村ともに今回の衆院選では裏金問題とのダブルパンチで苦戦した。


街頭演説をする萩生田光一氏(筆者撮影)

2021年に安倍は教団系のオンラインシンポジウムにビデオメッセージを寄せ、文鮮明の妻である韓鶴子総裁を礼賛する。その経緯を関連団体トップは「第2次安倍政権発足後の6度にわたる国政選挙における私たちの貢献」と礼拝で発言している。

旧統一教会の政界工作は日本にとどまらない。米政界にも浸食しており、ドナルド・トランプ前大統領やマイク・ペンス前副大統領、マイク・ポンペオ元国務長官といった米共和党の有力政治家が旧統一教会のイベントに登場するなどして対価を得ている。ポンペオは日本で開催された旧統一教会が仕切る宗教サミットに登場し、⽇本政府による教団への解散命令請求を批判までしている。

メディアの取材避ける「親密」候補

韓総裁を礼賛した安倍のビデオメッセージは山上徹也被告による銃撃事件へと発展する。しかし、トカゲの尻尾切りのように自民党は一方的に教団との関係を切った。教団だけが負の存在として切り捨てられ、自民党は個々の議員に接点を自己申告させる簡易な「点検」で幕引きを図った。

山上は旧統一教会被害者の第2世代に属する。教団は、信者からの高額かつエンドレスな献金といった財産収奪にとどまらず、「宗教2世」と呼ばれる子ども世代の人生をも狂わせてきた。旧統一教会のようなカルト教団による被害は本来、政府が取り組むべき問題である。だが、政治家が選挙支援のうまみから教団を実質的に保護し、被害は放置されてきた。

今回の総選挙の争点となった裏金問題と旧統一教会問題は、いずれもこの10数年、自民党を牛耳ってきた安倍派が震源だ。しかも銃撃事件後、最初の総選挙であるため、私は旧統一教会との関係を指摘された議員やキーマンとなる候補を中心に取材した。

特徴的だったのは、メディアの取材を避ける自民党候補が複数いたことだ。教団との親密な関係が指摘された神奈川18区の山際大志郎元経済再生担当相(比例復活)の陣営は、出陣式に訪れた多くのメディアの取材をシャットアウトし、街頭演説も一切行わない方針と告げた。韓総裁を「マザームーン」と持ち上げた神奈川4区の山本朋広元防衛副大臣(落選)にもメディアの直撃取材を回避する行動が見られた。

自公過半数割れでカルト規制は進展するか

カルト被害の防止には、フランスにおける反セクト法のような法律の制定が武器になる。だが、自民党や創価学会を支持母体とする公明党は後ろ向きだ。旧統一教会への解散命令に備えて法整備が望まれた財産保全法案は与党の反対で不成立となった。宗教カルトにおける問題はその反社会的性にあり、信教の自由に抵触するものではない。

総選挙の結果を受けて、石破茂政権は政治とカネの規制強化を公言しているが、旧統一教会の問題に踏み込む姿勢は見られない。どこを突いてもヤブヘビになるからだろう。本来、カルト団体の規制は第三者委員会による調査、あるいは国会の国政調査権を発動して調べるべき問題である。大韓民国中央情報部(KCIA)と統一教会の文鮮明教祖の共謀による、米国への政界工作の報告書を作成したフレイザー委員会のような取り組みが求められる。

現在、東京地裁において旧統一教会の法人としての解散命令請求が審理されている。解散命令の司法判断が出る前に被害者へ弁済されるべき財産が散逸してしまわないよう、さらに残余財産が教団の関連団体に移管されることのないよう様々な法整備が求められている。実効性のある法整備に消極的だった自公が衆議院で過半数割れしたことで、新たな動きが出てくる可能性もある。

旧統一教会に依存し、結果的に被害を放置してきた政治家は真摯に反省し、従来の事実関係について包み隠さず明かすべきである。本当の意味での関係断絶はそのプロセスを経た先にあるはずだ。

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