10月下旬、新聞に掲載された「資格確認書」の政府広報。マイナンバーのPRキャラクター「マイナちゃん」が資格確認書とマイナンバーカードの2枚を持っている
◆マイナ保険証を持つ人にも「資格確認書」
厚生労働省は9月になって、マイナ保険証を持っている75歳以上の後期高齢者の一部にも、資格確認書を交付することを決めた。 「国が自らルールを破ってるじゃない」 首都圏のある健康保険組合の担当者は、皮肉を込めて突然の国のルール変更にあきれてみせた。 資格確認書について、政府は「マイナ保険証を持っていない人に限って交付する」との方針を打ち出していたからだ。◆厚労省「高齢者はITに不慣れなので」
健保や自治体は12月以降、加入者の誰がマイナ保険証を持っていないかを確認し、対象者に資格確認書を交付しなければならない。 この健保では交付漏れを懸念し、加入者全員に資格確認書を交付することも検討していた。ところが、方針に反するとして厚労省が認めなかった経緯がある。マイナンバーカード
厚労省は9月の変更について「暫定的な運用」と断った上で、「後期高齢者は情報技術(IT)に不慣れで、マイナ保険証への移行に一定の期間を要する」と説明する。 保険証廃止を目前にしたルール変更は、マイナ保険証への移行が拙速であることの裏返しだ。◆ミス相次ぎ「例外扱い」から方針転換
もともと資格確認書は例外的な位置付けだった。 政府が2023年2月に公表した構想では、マイナ保険証を持っていない人や介護の必要な高齢者などを対象に、本人の申請に基づき交付するとしていた。有効期限は1年を限度として毎年更新が必要だった。 政府の対応が一変したのは、マイナ保険証を巡るトラブルだった。資格確認書の運用見直しなどマイナ保険証を巡る政府の方針を説明する岸田首相(当時)=2023年8月、首相官邸で
2023年春以降、他人の情報が誤登録されるなどのミスが多数発覚。保険証廃止に対する国民の批判が高まり、自民党内からも廃止延期論がささやかれた。◆本人申請がプッシュ型、期限も1年から5年に
政府は、資格確認書の運用を見直すことで火消しを図る。申請不要の「プッシュ型」交付に変更。さらに当時の岸田文雄首相が2023年8月、有効期限を最長5年にすると表明した。 冒頭の健保の担当者は、次々と制約が外れていく資格確認書に「もはや現行の保険証と何が違うのか分からない」とこぼす。 資格確認書の交付を担う健保や自治体にとって、保険証から切り替える手間やコストは少なくない。交付漏れによる〝無保険のリスク〟もある。 変更を重ねた結果、運用は複雑になり、厚労省が作った資格確認書のQ&Aは50問を超えた。厚労省が都道府県に送った「資格確認書」の運用を解説したQ&A。質問数は日を追うごとに増え、現在は51問にまで膨らんだ
現行の保険証も資格確認書も記載内容は、ほぼ同じ。川崎市では取り違えるミスが起きたほどだ。 「わざわざ資格確認書を作ってまで、保険証を廃止する必要があるか」。こうした批判は今もくすぶる。◆広がる資格確認書の交付対象
全国民のうち、マイナ保険証に登録しているのは6割ほど。つまり残りの4千7百万人には資格確認書を交付しなければならない。 加えて、9月の変更で、新たに後期高齢者になる人(推計で76万人)には、来年7月末までマイナ保険証を持っていても交付する。さらに厚労省は12月2日以降、マイナ保険証に搭載された「電子証明書」の有効期限(5年)後、更新のない人にも3カ月以内に交付することにしている。 高齢の母親のため、マイナ保険証とは別に資格確認書も取得しようと考えている東京都内の50代女性は、「資格確認書の作成と送付にかかるお金を考えると、保険証廃止は無駄のように感じます」と話す。資格確認書 マイナ保険証を持っていない人が保険証の代わりに使える証明書。現行の保険証と同じく券面には、氏名、生年月日、保険者番号などが印字される。12月2日以降、現行の保険証の有効期限が切れると加入する健保から無償で交付される。有効期限は健保ごとに設定できるが、最長で5年間。政府は、しばらくの間は申請なしで交付するとしているが、廃止についての言及はない。
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