17日に投開票が行われた兵庫県知事選挙で、前知事の斎藤元彦氏(47)が再選された。
パワハラなどの疑惑の告発がある中で、斎藤氏はどのように支持を集めて勝利したのか、有権者は何を信じて何に期待したのか。法政大学大学院の白鳥浩教授に聞いた。

「デジタルボランティア」が演説映像など拡散

再選から一夜明けた18日、斎藤氏は会見を行い、「多くの県民の支援を受けて当選させていただいた」と述べた上で、「SNSは今回の選挙戦において大きなポイントになった」と振り返った。そして、今後パワハラなどの疑惑の告発に関する文書問題について「調査など真摯に応じていくことが大切」と話した。

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青井実キャスター:
まず、この出直し選挙での勝利についてはどう見ました?

法政大学大学院 白鳥浩教授:
不信任案が全会一致で可決されたという時から見ると、ちょっと意外な結果だったということが言えると思います。ただ、候補者がこれほど乱立していくと、反斎藤票というのは一本化できない。そうなると、ある程度こういったことは予想ができたと思います。

異例の再選とも言える今回の選挙で、なぜ斎藤氏が勝利したのか。「“異例の再選”背景に『SNS』の存在感」「相手候補を応援…変わる選挙の今後」の2つのポイントで見ていく。

斎藤氏の得票数は111万3900票で、次点の稲村和美候補(97万6637票)に13万票以上も差をつけて勝利する形となった。

斎藤氏の公式の陣営には約30〜40人の中高時代の同級生や知人、以前からの支援者などがいたが、それに加えて、自主的に集まるボランティアが約2900人いて、グループLINEでつながっていたという情報がある。さらにこれに加えて「デジタルボランティア」という、演説などの映像を自身のSNSで拡散させる人たちが約400人いたという。

また、X(旧ツイッター)には、斎藤氏本人の投稿を拡散させることを目的とした「公式応援アカウント」というものがあり、フォロワーは6万3000人以上いたという。公式応援アカウントには斎藤氏の演説動画やスケジュールなどがアップされていた。この応援アカウントの投稿を本人が拡散するということもあり、平均的に1万以上「いいね」がついていた。

YouTubeにも本人のアカウントと公式応援アカウントがあり、本人のアカウントの総再生回数は約146万回だったのに対して、応援アカウントの総再生回数約386万回だった。

「好意的な発信が増え『それが正しいのではないか』と皆が思い始める」

青井キャスター:
思い起こせば、都知事選挙の石丸旋風もそうでしたけど、SNSを使った選挙が今、当たり前になっているということなのでしょうか。

法政大学大学院 白鳥浩教授:
はい。選挙のあり方が、ネットを駆使して変わってきてるっていうことも1つの事実だと思います。今何をやっているのか、ハッシュタグを付けて投稿すると、即時的にそれを見た人はそこに集まっていく。今までの選挙とは人の集め方もかなり違う形になっているんじゃないかと思います。
あと、1つの投稿から、二次的な切り抜き投稿や拡散というのが多く、1つの投稿が10とか100にもなってくる。好意的な発信がそれだけ増えていくと、何かそれが正しいのではないかと皆が思い始める。SNS時代の特徴だと思います。

青井キャスター:
切り抜きなんていう話もありましたけど。ただ、その斎藤氏をめぐっては、真偽不明の情報が飛び交っていたという話も聞くわけですよね。

宮司愛海キャスター:
例えば「パワハラ・おねだりエピソードも大体デマ」「まだテレビや新聞のデマを信じて、パワハラやおねだりをしたと思っている」などという投稿も相次いでいたそうです。

青井キャスター:
まだパワハラの有無については百条委員会の結論が出ていない中での選挙戦でしたが、SNSにこの不確かな情報がずっと出回っていたということですね。

法政大学大学院 白鳥浩教授:
百条委員会がまだ終わっていないので、あくまでも斎藤さんは推定無罪という状況でして、そんな中、パワハラがなかったという風に断言するということは、斎藤さんを応援している人のSNSの投稿が拡散していったということだと思います。その情報を見た若者なんかが信じた結果、投票につながっていく、そういうことがあったのではないかと思います。
SNSは非常に文章が短く、流れてきた情報が検証できないということが多いんです。怪しいものでも多数決でのような雰囲気で多くの情報が流れてくるので、そうすると、(見た人は)それがひょっとしたら正しいんじゃないかと思い始めます。そこに関しても「やっぱり斎藤さんやってないよね」みたいな雰囲気で投票してるところがあるんじゃないのかと思います。
また、演説などでも多くの人が集まってるのを見ると、「こんなに支持されている人が嘘をつくわけがない」と思ってしまう。そういう流れの中で、両陣営とも誤情報が拡散してるところがあったんじゃないかと思います。

青井キャスター:
真偽不明の投稿は、斎藤氏以外もありました。

宮司キャスター:
対立候補の元尼崎市長の稲村和美氏について、例えば「当選すると外国人の参政権が成立する」「1000億かかる県庁舎の建て替えを推進する」などといった投稿がSNSで相次いだんです。稲村候補はいずれについても、ホームページ上で否定するということがありました。
稲村候補は、落選確実になった後、「何が争点だったのか。斎藤候補と争ったというよりも、何と向き合ってるのか違和感があった」などと話しています。

「候補者を応援する候補者」選挙結果への影響は

今回の県知事選でも「候補者が候補者を応援する」という前代未聞の候補者も出てきた。

N国党の立花孝志氏は「当選を目的としない選挙」を主張し、百条委員会も第三者委員会も斎藤氏が白か黒か出ていないという演説を行った。

青井キャスター:
候補者が候補者を応援するというのは異例だと思いますが、これは問題ないわけですね。

法政大学大学院 白鳥浩教授:
これは「表現の自由の範疇」という風に考えられるのが、法的には問題がないというところです。ただ、当選を目指さない方が立候補するというのはかなり異例で、問題があるので、対策はどこかで必要だろうとは思うのですが、現状で表現の自由も守らなきゃいけないということで止められないです。

青井キャスター:
立花氏の行動は選挙結果に何か影響があったんでしょうか。

法政大学大学院 白鳥浩教授:
斎藤さん自身は「連携をしていない」という風に言ってますが、斎藤さんの後にすぐ演説をして、斎藤さんを褒め称えるということがあるので、実質的には選挙結果に一定の影響があったと考えられます。

青井キャスター:
SNSによって選挙のあり方が変わってきていますけれども、メディアの伝え方も含めて問われていますよね。

SPキャスター・中村竜太郎さん:
テレビとか新聞は公平性であったりとか、事実の確認に配慮をして報道していますが、そこを優先するあまり、どうしても伝えるべきことを伝わりにくくなっているっていうのはあると思うんですよね。だからといって、全てのSNSに書いてあることを鵜呑みにしちゃいけないと思うんです。よく「テレビの言ってることは信じられない、SNSしか信じられない」っていう声もあるんですけども、果たしてそれでいいのかっていう気持ちはありますね。

青井キャスター:
白鳥さんは、この辺どうお考えですか?

法政大学大学院 白鳥浩教授:
選挙に向かって、どんどん報道がオールドメディアの中で少なくなっていく。それに対して新しいメディアのSNSはお構いなしでやっている。そのため、SNSの方が選挙直前に説得力や影響力を持ってしまったっていう側面があるんじゃないかと思います。

青井キャスター:
オールドメディアと言われる事実を真摯に受け止めなきゃいけないと思うんですけど、もしかしたら何十年テレビにいることで、それが何か染み付いてしまったのかもしれないので、それも考えないといけないです。まだ選挙の分析ができていないんですけれども、これから選挙報道のあり方だったり、今回のSNSだったり、民意が示したこと、これ深く強く受け止めていきたいと思います。
(「イット!」11月18日放送より)

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