広がりを見せたX投稿
「本日、失職を選択し、出直すことを決めました」
9月26日。
斎藤元彦氏の公式アカウントがXに投稿すると、賛否含め1万のコメントがつきました。
「いいね」は17万にのぼり、2800万件以上表示されるなど関心を集めました。
陣営はプロフィール写真やイメージカラーなどを更新、新たに後援会のアカウントも立ち上げました。
最初は一人で街頭に立つ写真を投稿していましたが、徐々に県民と一緒に映った画像も増えていきます。
選挙期間に入ると、街頭演説を聞きに集まった多くの人たちの画像を投稿。
選挙期間中に、Xで「斎藤元彦」を含んだ投稿は110万件を上回り、選挙期間の後半にかけて投稿が増えていきました。
フォロワーの数は、投票日時点で19万2400人にのぼり、失職を表明する前に比べて、15万人以上増えていました。
SNS支えたボランティアチーム
SNSでは、斎藤氏の公式アカウントだけではなく、支援者による発信も広がっていました。
明石市で小売業を営む男性は、斎藤氏が立つ街頭によく集まるメンバーでボランティアの支援グループをつくりました。
情報共有のためのLINEのグループには投票日までに2900人ほどが登録。
現場の様子を撮影するチームや、投稿して拡散するチームなどに分かれ、SNSで応援コメントを投稿し合っていたといいます。
男性はもともと斎藤氏とは面識がなかったといいますが、SNSや街頭での姿を見て支援を決めたそうです。
男性
「Xに流れている情報をすべてうのみにするわけではないですが、(自分で調べたかぎり)斎藤さんを批判するマスコミの報道のエビデンス(証拠)が出てこなくて、そうこうしているうち『斎藤さんの方が正しい』という情報が出てきた。情報をSNSで見たり聞いたりしましたが、そこから直接見に行ってしっかり応援しようという気持ちになりました」
最初は一人だった街頭演説に人が増えていく姿も目の当たりにしていました。
「どんどん加速度的に人が増えていって人のパワーを現場で実感しました。SNSがきっかけでスピーチや政策を知って、われわれはそれを広める行為を後押ししたということです」
動画も“第三者”によって拡散
今回の選挙でもう一つ特徴的だったのが動画の見られ方です。
選挙でのSNS戦略を調査、分析しているネットコミュニケーション研究所の中村佳美代表によると、斎藤氏のYouTubeの公式チャンネルの総再生回数は約119万回でした。
一方で、みずから立候補しながらも斎藤氏を支援するという異例の対応を取った立花孝志氏の公式チャンネルは100本以上の動画が投稿され、合計1500万回近く再生されていたといいます。
「パワハラはなかった」「有能な知事を追い出そうとしている」などとして、むしろ斎藤氏は被害者などと主張する内容でした。
パワハラの疑いなどの事実関係については百条委員会や第三者機関による調査が続き、結論が出ていません。
一方で、ほかにも時事問題を取り上げるチャンネルが「斎藤氏が既得権益とたたかっている」などという見解を伝えていました。
斎藤氏を応援する動画は多く発信されていて、有権者が情報を求めてさまざまな動画を視聴していたことがうかがえたといいます。
中村代表
「(テレビなどは)いろいろな制約に縛られた中での選挙報道だと思うのですが、マスメディアに対する不信感というのがかなり募っていると思います。“真実”を知りたい、“本当の情報”を知りたいというところからも自分自身で検索をして、SNSで情報を取りに行くという傾向はおおいにあると思います。情報源としての役割としては、マスメディアと同じぐらいにYouTubeやSNSが影響力を持ってきていると思います」
動画は斎藤氏が公式アカウントを開設していなかったTikTokにも多く投稿されていました。
NHKが調べたところ、街頭演説を短くまとめた切り抜き動画など、合わせて少なくとも2000万回再生されていました。
東京都知事選挙に立候補した石丸伸二氏の動画を頻繁に投稿していたアカウントが、今回斎藤氏の動画を投稿しているケースも見られました。
中村代表
「第三者によって自然発生的に広がっていきました。純粋に応援しているものもありますが、再生回数を上げることを目的とした人が投稿していたのではないかという動向も一部見られました。こうしたことも含めて、第三者の影響力が加わって大きなうねりになって支持のネットワークを拡大したことが当選を後押ししたという見方ができます」
リアルにも変化が
SNSや動画の広がりに呼応するかのように、投票行動や支援の動きにも変化が見られました。
NHKが選挙期間中の9日間行った期日前出口調査では、序盤から中盤にかけてはリードされていた斎藤氏が、終盤に逆転していました。
選挙戦終盤には兵庫県議や知事選と同じ日に行われた県議補選の候補者らがSNSで相次いで斎藤氏への支援を表明。
斎藤氏の街頭演説に駆けつけたとする投稿もありました。
投票率は55.65%で、前回の3年前と比較して14.55ポイント高くなりました。
NHKの出口調査で、投票する際に何を最も参考にしたかについては「SNSや動画サイト」が30%で、「新聞」と「テレビ」のそれぞれ24%を上回りました。
中村代表
「今後はSNSを活用した新しい拡散の仕組み、あり方が変わっていくことによって、ネットでの影響力や、ネットでの民意がどんどん選挙結果や投票行動に大きく影響を与えていくこともあると思います」
デマの拡散やひぼう中傷で…
一方で、デマの拡散やひぼう中傷による影響も課題となっています。
知事選に立候補した稲村和美氏の後援会は、選挙期間中にSNSのアカウントが凍結されたことについて、不特定多数の人物がSNSの管理者に対してうその通報を一斉に行った疑いがあるとして22日、偽計業務妨害の疑いで兵庫県警に告訴状を提出しました。
稲村氏はほかにも「外国人の参政権を進める」とか「尼崎市長時代に退職金を大幅に増額させた」といった投稿が拡散されていて、みずからのウェブサイトでいずれも否定しています。
後援会はこうしたことについても、うその投稿をして選挙運動を妨害したなどとして公職選挙法違反の疑いで告発状を提出しています。
また矛先は、斎藤知事が失職する前にパワハラなどの疑いで告発された問題を調査する兵庫県議会の百条委員会にも及んでいます。
なかには個人名や顔写真を載せて人格批判をする投稿などもありました。
こうした中、投開票日翌日の18日には、百条委員会の委員でもある竹内英明議員が一身上の都合を理由に議員を辞職。
同じ会派に所属する議員は記者会見で「知事選挙の最中にインターネットでことばの暴力が散見され、家族を守るために辞職した」と話しました。
さらに百条委員会の奥谷謙一委員長は、SNSで虚偽の内容を投稿され名誉を毀損されたとして警察に刑事告訴しました。
百条委員会の委員長が立花氏を告訴 “虚偽投稿で名誉毀損”
山口真一 准教授
「選挙というのは民主主義のプロセスの1つにすぎません。誰が勝とうと、その後に待ってるのは議論と合意形成ですが、SNS上で対立構造や極端な言説が見られやすい、拡散しやすいとなってくると、みんなが極端になっていって分かりあえなくなっていくおそれがあります。その結果、社会の分断が進めば合意形成が難しくなり、市民どうしで対立する事もありえます」
さらに今後、懸念されることとして政策の中身よりも、センセーショナルで分かりやすい情報や誤った情報によって適切な判断が損なわれることを指摘しています。
そのうえでメディアが果たすべき役割については。
「選挙の時は、迅速なファクトチェックが何より求められると思います。迷っている有権者にとっては参考になると思うので、恐れずにその機能を果たしてほしいです。テレビだけではなく、オンラインでも分かりやすく提示していくことはすごく重要だと思います」
サタデーウオッチ9
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