障害者の希望に合わせて困りごとの解決を図る「合理的配慮」を民間企業などに義務付けた改正障害者差別解消法が4月に施行された。車いす利用者が移動する際のサポートなど、各業界で取り組みが進んでいる。ただ、接客の現場からは、希望に応じきれない場合の対応や、どの程度まで応じるべきかなど、線引きが課題との声も上がる。
マニュアル化は困難
「普段からできる限りのことはしている。法改正を受け、従来に加えて何ができるのかを従業員に周知している」。障害者対応が比較的進んでいるとされる百貨店業界。松屋銀座(東京都中央区)の担当者は、これまで主に対応を担ってきたサービス部門だけでなく、全館で意識共有を進めていることを明かす。
同社は昨年6月、障害者や妊婦らを「優先」としていたエレベーター1基を、「専用」に切り替えた。バリアフリーの移動ルート案内も館内だけでなく、最寄り駅から説明できるようにするなど、取り組みを進める。
ただ、同担当者は店外での付き添いやトイレの介助などを例示し、「どこまでやるべきかの線引きが難しい」と打ち明ける。完全なマニュアル化は困難といい「対話をしながらケース・バイ・ケースで折り合いをつけていくしかない」と話す。
「過重な負担」にならない範囲で
今回の改正で、事業者側は一律に対応を拒否することは認められなくなる。スーパーなどで混雑して人手が足りない場合も、代わりに希望の商品を手渡したり、案内可能な時間帯を伝えるなど、合意点を探る「建設的対話」が必要となる。聴覚障害者や視覚障害者には、イラストや写真、点字を使ったやり取りも求められる。
あくまで事業者側にとって「過重な負担」にならない範囲で対応することとしており、合理的配慮が必要なのは「本来の業務に付随するもの」に限られる。電車やバスといった交通事業者が、業務と無関係な公道での移動介助や食料品の購入などを依頼された場合、断っても違反にはならないとした。
「当たり前」をしたいだけ
ただ「過重な負担」の解釈は難しく、違反かどうかの線引きが分かりづらいのも現実だ。小売り大手の担当者は「『義務化されたのにしっかりやっていない』などといわれたら困る」と困惑気味だ。
自身も下半身に障害を持つ日本身体障害者団体連合会の阿部一彦会長(東北福祉大名誉教授)は、店外案内もトイレの介助も業務外のことであり必要ないとの考えを示し、「当事者(障害者)も皆さんと同じ当たり前のことをしたいだけ。目的達成に向け、困っていることを当たり前のように伝えられる雰囲気ができれば」と話す。
具体的な基準についても「事業者と当事者が互いに何に困っているのかを話し合うなどして一緒に作っていきたい」とした。(福田涼太郎)
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