全国の信用金庫でつくる「よい仕事おこしネットワーク」(事務局・城南信用金庫)は4月26日、東京都内で「第3回全国首長サミット」を開いた。ネットワークと連携協定を結ぶ全国の自治体から13市区町の首長らが参加。「デジタルを活用した地域社会の課題解決に資する取り組み」をそれぞれ発表し、各地で直面する人口減少や少子高齢化といった地域課題を解決するためのデジタル活用策などを語り合った。出席者の主な発言は次の通り。

デジタルの活用などについて意見交換が行われた「第3回よい仕事おこしネットワーク全国首長サミット」=いずれも4月26日、東京都千代田区で

◆防災、農水業…13市区町の事例を発表

 内谷重治・山形県長井市長 有害鳥獣対策で市内13カ所に人工知能(AI)付きのセンサーカメラを設置。イノシシやクマが通ると、猟友会の関係者ら約50人のスマートフォンに一斉に通知して迅速に発見や捕獲している。  木幡浩・福島市長 地域デジタル化のエンジンとしての市役所改革に取り組み、67の業務システムを内製化した。このうち議会答弁システムは全国の自治体でも役に立つのではないかとビジネス化している。  坂本浩之・福島県三春町長 災害時にLINEを活用した情報発信の一元化に取り組んでいる。ドローン2台を町が購入し、災害現場の被害状況を短時間で把握している。町の広報をデジタル化した。町内会の人が配る手間を割愛し、10言語に対応している。

千葉県館山市の森正一市長

 森正一・千葉県館山市長 市内のホテルでワークスペースやサテライトオフィスの拠点を整備したほか、移住相談窓口を開いているNPO法人が管理する築100年の古民家にテレワーク環境を設けた。移住者の増加や企業誘致などに取り組んでいる。  武井雅昭・東京都港区長 生成AIを活用した(自動対話システム)チャットボット機能を開発した。区のホームページ約2万2500ページの情報をAIに学習させて、区民からの質問に回答する。公衆無線LANを搭載したスマートポールも公園などに順次整備。停電時も安全安心に関する情報や人流を迅速に把握できるようにする。  福田紀彦・川崎市長 昨年4月から、高機能の電子申請システムを導入し、法令などで対面審査などが必要とされるものを除く2650の手続きをオンライン申請可能とした。若年層の方に運動習慣を持ってもらうため、ウオーキングアプリ「かわさきTEKTEK(てくてく)」を開始。ためたポイントを市民自身が指定する小学校に寄付できるようにした。  桜井雅浩・新潟県柏崎市長 バスやタクシーの運転手がいない中、高齢者のためにAIを活用した予約型乗り合いタクシーを始めた。病院やスーパーといった予約内容に応じた最適な走行ルートを構築している。1日100人ほどが利用している。  江原達也・山口県長門市長 稲作ではドローンによるじかまきや農薬散布を実施。畜産では牛にセンサーを貼り付けて体温や動きをリアルタイムで監視して、発情や分娩(ぶんべん)、異常の早期発見を可能とした。  大山茂樹・香川県さぬき市長 高校生が高齢者に教えるスマホ相談会を開催している。高校生は自らを向上させることができ、高齢者も食わず嫌いのものに親しみを持てる効果がある。  上村一郎・香川県東かがわ市長 ハマチ養殖の発祥地だが、沖に出る作業のため高齢の漁師はできない。現在挑戦しているのがスマート牡蠣(かき)養殖。海の水温や水質、栄養素のデータがスマホに届き、比較的浅瀬で育てられる。  松尾佳昭・佐賀県有田町長 新型コロナ禍では町の体育施設の貸し出しなどの窓口申請に対して、町民からのクレームが多かった。感染リスクなどを考えて導入したのがウェブで予約する「まちかぎリモート」。LINEなどに送った暗証番号を打ち込んで開錠、施錠できる。

静岡県伊豆の国市の山脇裕之副市長

 山脇裕之・静岡県伊豆の国市副市長 市公式LINEアカウントでは、年代・性別・居住地区などを分類して、市民が希望する情報をピンポイントで配信している。防災情報も強化。災害時には防災モードに切り替わり、避難誘導の情報を迅速に配信する。  鈴木直人・福島県矢祭町自立総務課長 「子どもICT(情報通信技術)アドバイザー」事業を展開している。町内唯一の中学校に「特設デジタル部」を開設。部員3人がデジタル技術を身につけ、こども園の運動会の動画撮影などをしている。

◆国への要望、消滅危機どうする?

デジタルの活用などについて意見交換が行われた「よい仕事おこしネットワーク全国首長サミット」

 金井辰樹・東京新聞編集局長(司会) 岸田政権はデジタル田園都市国家構想を打ち出している。デジタル活用について、国への要望などはあるか。  館山市・森市長 若い人が進学や就職で都心に出て行くと、帰ってこない。地元でテレワークができるような積極的な支援の継続、拡充をお願いする。

東京都港区の武井雅昭区長

 港区・武井区長 各自治体がそれぞれアプリを開発している。国が調査して標準化する形で示してくれると、後発の自治体の参考や省力化になる。  伊豆の国市・山脇副市長 (住民基本台帳などの業務システム管理で国と自治体が共同利用する)ガバメントクラウドは、導入時コストには国の手厚い保護があるが、運用が始まると、これまでの経費を若干上回ると試算している。対策をお願いしたい。  金井編集局長 中小企業のデジタル対策を活性化するには。

川崎市の福田紀彦市長

 川崎市・福田市長 これまでの国の対策は、コロナの交付金みたいにメニューが固定化された給付を年度内に執行しなさいと言われて、配って歩くみたいなものだった。企業がデジタル装置買い替えなどに使えるような弾力的な運用をしないといけない。  金井編集局長 民間の有識者グループが全国の自治体の4割に当たる744市町村を将来、消滅可能性があると指摘した。  長井市・内谷市長 デジタル化が進むと、地方に住みながら東京の会社に勤められるし、世界を相手に仕事ができる時代が間もなく来る。民間と一緒にデジタル化を進める。  さぬき市・大山市長 この問題はデジタル化だけで解決できるものではない。ただ利便性を高めても、文化や芸術といった内面に関する部分がある。定住人口にこだわらず、観光人口も含めて考えれば、あまり悲観することはない。

◆【主催者あいさつ】川本恭治・城南信用金庫理事長

あいさつする城南信用金庫の川本恭治理事長

 今は円安や資源価格の高騰がすごい。信金のお客さまは中小企業が多いが、賃上げをできずに大変苦労している。各自治体の知恵をお借りして、これらの課題を解決し、日本を元気に明るくしたい。

◆【来賓あいさつ】自見英子・地方創生担当相

あいさつする自見英子地方創生担当相

 人口減少が深刻な形となって、各地域にのしかかっている。担当相として特に力を入れているのが、地域コミュニティーの形成と地域の中での買い物支援、オンライン診療などを活用した地域医療支援。子育ての希望をかなえることにも重点的に取り組んでいる。それぞれの困りごとに対応して地域を活性化したい。 

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