熊本県水俣市で1日に行われた水俣病の患者・被害者らと伊藤信太郎環境相との懇談中、環境省職員がマイクを切って被害者側の発言を遮った問題をめぐり、伊藤氏は8日に水俣市を訪れて被害者側に直接謝罪した。   ◇  ◇
 
 政府は1週間たってようやく謝罪した。被害の切実な訴えを封じる前代未聞の失態で、「聞く力」を掲げる岸田文雄首相の政権運営にさらなる打撃となるのは確実。最近は批判に耳を傾けようとしない政権の姿勢が目立ち、不誠実な対応がまたしても繰り返された。(近藤統義)

◆環境省「マイクを切る対応は代々引き継いできた」

水俣病被害者の発言制止問題に関し、記者団の取材対応に向かう岸田首相(中央)=千葉一成撮影

 首相は8日夜、官邸で記者団に環境省の対応が不適切だったと認めた上で、伊藤信太郎環境相の責任について「今後、関係者の皆さんに寄り添った丁寧な対応をしていくことを含め、職責を全うしてもらいたい」と述べるにとどめた。  「議論が止まらないようなときはマイクを切るということが代々引き継がれてきた」。環境省の担当者は8日、立憲民主党の会合で、事前に設定した発言時間3分を超過したら音量を切る運用があったと認め、実際に切ったのは初めてだったと明かしたが、誰の指示かは説明しなかった。  担当者は「事務的なミス」と釈明。出席議員からは「意見交換の場が単なる儀式になっていたのではないか」「不手際ではなく、意図的にやった」と対応を疑問視する声が相次いだ。  環境省の前身の環境庁が1971(昭和46)年に発足したのは、高度成長の負の側面として生じた公害問題に重点的に取り組むためで、水俣病はまさに「公害の原点」。立民の安住淳国対委員長は国会内で記者団に「人の道に反する。権力を持っている側があんなことをするのは絶対に許されない」と訴えた。

◆安倍政権・菅政権と結局あまり変わらない独善体質

 首相は2021年9月の自民党総裁選時から「聞く力」を何度もアピールしてきた。異論に向き合わず、強権的と批判された菅義偉前首相や安倍晋三元首相の政治姿勢の転換を掲げて就任したが、政権の体質はあまり変わっていない。  健康保険証の廃止は高齢者の不安の声が消えないのに、マイナ保険証への一体化を強行。沖縄県名護市の辺野古(へのこ)新基地建設は地元が求める対話に応じず、粛々と工事を続ける。国会論戦では野党からの耳の痛い話を「指摘は当たらない」と一蹴し、議論を深めようとしない政権の対応が常態化している。  立民の中谷一馬氏は衆院内閣委員会で、今回の問題について「まさに岸田政権の『聞く力』のなさを体現する出来事だ。これが対話の姿勢なのか」と指摘。林芳正官房長官は「不適切な対応だった。政府としておわび申し上げる」と防戦一方だった。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。