子どもに関わる仕事をする人の性犯罪歴をチェックする「日本版DBS」創設法案が9日、衆院本会議で審議入りした。犯歴確認を義務付ける対象から学習塾や認可外保育所などが外れたことを問題視する声の一方で、刑期を全うした加害者らの社会復帰の妨げになるとの指摘も上がる。9日から始まった国会審議では、推進、慎重の双方の立場から寄せられている懸念を解消するような議論が欠かせない。(坂田奈央)

◆「このままでは防げない」


 
 性被害の当事者らでつくる団体「Spring」理事の寺町東子弁護士は「子育て中の人が利用しているサービスが、犯歴の確認を義務化する対象から外れている。このままでは事件は防げない」と強調。マッチングサイトのベビーシッターや有償ボランティアなど幅広く犯歴の確認を義務付けるべきだと訴える。  雇用主側が採用の際に犯歴を確認するDBSの照会システムに関しては、就業を望む人が自ら前歴のない事実を政府に登録する仕組みにすべきだと主張。子どもに接するあらゆる仕事から性犯罪歴がある人を遠ざけることが必要として、犯歴を照会できる対象を裁判所で有罪判決が確定した「前科」だけでなく、示談や起訴猶予による不起訴の事案も含めるよう要請する。

◆9割は初犯 まず「予防環境整備を」

 一方、性犯罪の防止に理解を示しつつも、広範な犯歴照会が加害者の人権侵害につながる恐れを指摘する声もある。甲南大の園田寿名誉教授(刑法)は「子どもに対する性犯罪が卑劣なのはよく分かるが、前科情報が広く民間に流れた場合、改善・更生や社会復帰の妨げになる」と述べる。  性犯罪全体の約9割は初犯で、前科を照会するだけでは子どもを完全に守れないという現実もある。園田氏は「子どもと接する部屋に監視カメラをつけるなど、環境面の整備を優先すべきだ」と提案する。  また、性犯罪者を遠ざけるだけでなく、更生や再犯を防ぐ視点での対策強化を求める声は根強い。依存症施設「大船榎本クリニック」(神奈川県鎌倉市)の斉藤章佳・精神保健福祉部長は、性犯罪者の治療に携わった経験を基に「社会から排除されること自体が再加害のトリガー(引き金)になる」と説明。「監視・監督・排除の視点だけではなく、再発防止プログラムを受講させる仕組みを検討してほしい」と求める。

 「日本版DBS」創設法案 英国の「DBS」(前歴開示・前歴者就業制限機構)をモデルに、子どもの性被害防止のための新制度を導入するとして、3月19日に国会提出された。新制度では、就労希望者らの性犯罪歴の確認に関して、事業者がこども家庭庁に申請。同庁が法相に照会し、犯歴を記載した「犯罪事実確認書」を作成して事業者に交付するとした。対象とする「特定性犯罪前科」には、不同意わいせつ罪などの刑法犯に加え、痴漢など自治体の条例違反も含まれる。



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