【ワシントン=大内清】岸田文雄首相が11日に演説した米議会は、共和党のトランプ前大統領の影響下にある保守強硬派議員らの抵抗でウクライナ支援などの重要法案を可決できない事態が続いている。ジョンソン下院議長(共和)は、トランプ派からの突き上げで解任の可能性も取り沙汰される。米国が引き続きグローバルな指導力を発揮することを求めた首相のメッセージは届くのか。
拍手を送らない議長
「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」。米国が主導してきた国際秩序の維持と、ウクライナ支援強化の重要性について訴えかけた首相の言葉に、演壇背後の議長席に座るジョンソン氏は拍手を送らない場面もあった。隣のハリス副大統領や民主党議員ら議場の大部分がスタンディングオベーションで賛意を示したのとは対照的だった。
ジョンソン氏の非礼ともとれる態度の背景には、党内基盤の弱さがある。
ジョンソン氏に対しては、トランプ派急先鋒(せんぽう)のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員が3月下旬に解任動議を提出。現時点では効力が保留されているが、同議員は、ジョンソン氏がウクライナ支援などで民主党とバイデン政権に妥協すれば解任に向けた手続きに入ると恫喝(どうかつ)している。
下院(定数435)の議席は現在、共和党218、民主党213で、差はわずかしかない。ウクライナ支援予算を可決する場合、トランプ派は反対に回るのがほぼ確実なことから、ジョンソン氏は民主党との協力が不可欠となる。同派はこのシナリオを阻止するため、解任をちらつかせて圧力をかけているのだ。
「重荷」ともに背負う首相の覚悟
下院では昨年10月、当時のマッカーシー議長がトランプ派の動議により在任約9カ月で解任された。後任のジョンソン氏も同派を統制できずにいる。
ロシアのウクライナ侵略を巡りトランプ氏は、当選したら「24時間以内に終結させる」と主張。米メディアは、同氏がウクライナに南部クリミア半島と東部ドンバス地方の対露割譲を迫る「和平案」を検討していると伝える。トランプ氏は、ロシアの脅威と対峙(たいじ)する北大西洋条約機構(NATO)への関与にも否定的だ。
首相は演説で、トランプ氏に代表される孤立主義的な姿勢を「米国の一部にある自己疑念」と形容し、グローバル・パートナーとして国際秩序維持の「重荷」をともに背負うとの覚悟を示した。しかし、内紛と民主党との「妥協なき戦い」にとらわれたトランプ派に響く可能性は低い。
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