◆父母が協力できないケースにも広げようとしている
共同親権法案が抱える課題などについて話す自民党の野田聖子衆院議員=東京・永田町で
—共同親権の評価は。 「父母が協力して子育てするという意味での共同親権は一つの理想であり、それ自体に反対はしていない。私と夫もそうだが、婚姻中の夫婦は共同で子への親権を行使している。仮に離婚しても、対等な関係で別れた父母なら共同で子育てをしてきたのが日本だ。今回、父母が協力できないケースにも対象を広げようとしている。子の将来を左右する重大な法案なのに、多くの国民はもとより、国会議員もほとんど法案の中身を知らなかった。『こどもまんなか』を掲げ、こども家庭庁を創設した岸田内閣だが、子ども目線からの検討、つまり、子をどう守るかの視点が不足していた。ここに無関心なまま立法府が法案を通すと、子の人格を壊しかねないと思った」◆判断する家裁は慢性的な人手不足
—改正案では、父母の対立時は家裁が子の利益を最優先に判断するとされる。 「与野党の有志で関係機関から実態を聞いたところ、家裁は慢性的な人手不足であることが分かってきた。現状では、裁判官の補充や職員の増員、予算増額もされていない。これではガソリンの入っていない新車と同じだ。この状態で家裁に一任するのは、立法府として無責任だ」 —共同親権の導入により、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の継続が懸念されている。衆院本会議を途中退席した自民党の野田聖子氏=4月16日
「DV・虐待対策は、日本ではまだまだ成熟してない分野。昨年成立した改正DV法で、やっと精神的DVが明記された。例えば、人前で一方的にばかにするなどの行為もDVに該当しうるという認識は、まだ日本社会に根付いていない」◆まず「法定養育費」を議論すべきだった
—改正案には、離婚時に取り決めがなくても最低限の支払いを義務付ける「法定養育費」の創設が盛り込まれた。 「養育費は、親権の有無や面会交流の頻度に関係なく、必ず支払うべきもの。不払いは虐待、犯罪と同義と位置付けてもいいぐらいで、本来は親権より先に議論するべきだった。改正案に盛り込まれた新制度も、養育費を払わない親に刑罰を科すような諸外国並みの制度には及ばない。『一定の養育費を取るから親権は与えやすくしますよ』という、駆け引きの材料のようにされたことは不適切だ」 —参院での議論や今後の運用に期待することは。共同親権法案が抱える課題などについて話す自民党の野田聖子衆院議員
「こども家庭庁の創設に取り組んだ者としては、子の意見表明権を保障してほしい。1人の裁判官が抱える案件が多く、一つ一つにかける時間が足りない現状も、抜本的に変えるべきだ。DV、虐待の知識が豊富な裁判官の育成も急務だ」◆親権は怖い。子を傷つける可能性もある
—共同親権が世界の潮流だと支持する向きもある。 「そもそも親権制度に、世界統一はあり得ない。グローバルスタンダードを目指すなら、選択的夫婦別姓の導入の方がはるかにふさわしい。主要国で採用していないのは日本だけだ」 —共同親権になれば、別れた相手に対し、子の医療や教育、パスポートの取得など、重要事項に関する相談をする必要性が生じる。 「子のパスポートの取得を拒む別居親は実際にいる。『おかしくないか』と言いたい。親権は怖いものだ。『子どものために』と言いながら、親権の使い道によっては、子を傷つける可能性があることを前提に、議論してほしい」 ◇◆国会審議大詰め、与党からも懸念多く
共同親権を導入する民法改正案は16日にも参院法務委員会で採決が行われ、可決される見通しだが、運用の詳細は曖昧なままだ。審議終盤にもかかわらず、与党から弊害を懸念する声が相次ぐ状況となっている。 自民党は改正案に賛成の立場だが、同党の古庄玄知氏は家庭裁判所の判断次第では父母の一方が拒否しても共同親権となり得る制度設計を問題視する。参院法務委の審議では「裁判所にげたを預け過ぎだ」「デメリットの方が多い法案」などと苦言を呈してきた。民法改正案を可決した衆院本会議=4月16日
父母の対立が深刻なケースで子の利益を守れるかも焦点だ。古庄氏は14日の審議で「紛争が増えれば必然的に子が巻き込まれる」と指摘。「再婚相手との養子縁組や転校、転居、進路の決定も、別れた相手の承諾が要るのかと悩むケースが多い」と懸念を示した。◆子の意見の表明権や尊重の義務が盛られず
これに対し、法務省の竹内努民事局長は「単独の親権行使が可能な例を網羅的に説明するのには限界があるが、法の趣旨の周知に努める」と述べるにとどめ、詳細な説明は避けた。 改正案では、離婚で影響を受ける子が意見を表明する権利の保障、家裁や父母が子の意見を尊重する義務が明文化されていない。 公明党の伊藤孝江氏は14日の審議で、現状の離婚事案も子の意見を聞くかどうかが家裁任せになっていると指摘。「共同親権を含む司法手続きに、子の意見表明権を担保する取り組みが必要だ」と訴えた。(大野暢子) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。