26日投開票の静岡県知事選を巡り、自民党が厳しい選挙戦を強いられている。知事選は、自民が無所属で元副知事の大村慎一氏を、立憲民主党と国民民主党が無所属で前浜松市長の鈴木康友氏を推薦し与野党対決の構図に。4月の衆院3補選で全敗した岸田文雄政権にとっては「負けられない戦い」だが、派閥の政治資金パーティー裏金事件に端を発した逆風が収まる気配はない。自民は政権幹部の選挙区入りを控えるなど「自民色」を薄めた選挙戦を展開するが、挙党一致とは言い切れない状況にある。
「企業回りの状況について、党本部から激しくハッパをかけられた。こちらとしては『すいません』と謝るしかなかった」。地元選出の自民議員は知事選の戦いぶりについてそう明かした。
衆院3補選で自民は、東京15区と長崎3区では候補を擁立できず、唯一候補を立てた島根1区でも敗れ、全敗を喫した。党内では「岸田首相の下では次期衆院選は戦えない」との見方が広がっており、補選後初の大型選挙となる静岡県知事選の動向に注目が集まった。
県連は4月23日に大村氏の推薦を党本部に上申。党内には推薦を見送るべきだとの声もあったが、党は告示前日の8日になって大村氏の推薦を決定した。党幹部は「推薦してもしなくても、負けたら自民党の負けと言われる。それならば推薦しようということになった」と明かす。首相も推薦に前向きだったという。
党本部推薦で退路を断った形の自民だが、裏金事件と党の政治改革に対する世論は依然として厳しく、「この状況で自民党の色が濃くなると逆効果になる」(自民議員)のが現状だ。そのため、党は政権幹部の選挙区入りを極力控える方針を決めた。
ただ、地元選出で「ポスト岸田」の一人にも数えられる上川陽子外相には例外的に応援を要請。上川氏の手堅く真面目なイメージに期待をかけたが、上川氏は18日の静岡市での演説で、大村氏の当選に向け「この方を私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」と発言。翌日に発言を撤回する事態となり、混乱を招いた。
地方選が時の政権に影響を与えた例は少なくない。菅義偉前政権は2021年4月の衆参3選挙で不戦敗を含め全敗。さらに菅氏の地元の横浜市長選(同年8月)で自身が支援した候補が敗れ、求心力を急速に低下させた。党内で交代論が高まり、菅氏は9月に退陣表明に追い込まれた。また、麻生太郎政権下の09年7月の静岡県知事選では、野党系の川勝平太前知事が自民推薦の候補に勝利。麻生氏は同月、衆院解散に踏み切ったが、総選挙で政権交代を許した。今回の知事選に敗れた場合、岸田首相による衆院の解散権行使が事実上封じられる可能性が指摘されている。
一方、逆風下で勝利すれば、首相の求心力が一定程度回復し、6月の国会会期末などに衆院解散が模索されるのではないかとの見方もある。党関係者は「勝てば政界の『景色』もガラッと変わるだろう。政権はそこに賭けているのではないか」と分析した。
6月に始まる1人当たり4万円の定額減税をアピールし、9月の党総裁選前に衆院を解散して総選挙に勝利し、総裁再選を果たす――。首相はこうしたシナリオを描いているとされる。
ただ、仮に首相が衆院を解散したとしても、総選挙で勝利できる状況にはほど遠いとの見方もある。別の党関係者は「首相に解散権を行使されると(当選できず)自分のクビが飛ぶかもしれないと感じている議員は選挙支援を嫌がっている」と語り、一枚岩で戦えていないとの見方を示した。【竹内望、高橋祐貴】
静岡県知事選立候補者(届け出順)
横山(よこやま)正文(まさふみ) 56 政治団体代表 諸新
森(もり)大介(だいすけ) 55 党県委員長 共新
鈴木(すずき)康友(やすとも) 66 [元]浜松市長 無新[立][国]
大村(おおむら)慎一(しんいち) 60 [元]副知事 無新[自]
村上(むらかみ)猛(たけし) 73 不動産管理業 無新
浜中(はまなか)都己(さとみ) 62 会社社長 無新
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。