任期満了に伴う神奈川県の小田原市長選は19日、投開票され、いずれも無所属で、市長を3期務めた元職加藤憲一さん(60)が、再選を目指した現職の守屋輝彦さん(57)=自民、維新、国民推薦=、新人の元会社員古川透さん(64)を大差で破り、返り咲きを果たした。当日有権者数は15万7448人。投票率は48.17%で2020年の前回(46.79%)を1.38ポイント上回った。(西岡聖雄、砂上麻子)

返り咲いた加藤さん(中央)=いずれも小田原市で

 加藤さんは市内の事務所で当選確実の一報を受けると「市民の良識が示された。誠実でまっとうな市政を求める市民の声が勝利を生んだ」と喜んだ。「小田原をどういう町にするのか、持続可能な社会をどう築くか、そのために200以上の政策を作った。大事なのはこれからだ」と抱負を語った。  選挙戦では「市政に誠実、信頼、そして希望を」を掲げた。当選後には、当面の具体的な取り組みとして(1)現市政で新たに設けられた市長直属の政策監ポスト廃止(2)市民と情報共有する官民の財政市民会議や、分野別の市民会議の創設(3)大型開発の見直し-を挙げた。  陣営によると、組織力のある守屋さんに対抗し、徹底した草の根の運動を展開。544票差で4選を阻まれた前回に比べ、若者らの支援が拡大した。街頭演説に集まる市民も1回当たり20~30人と前回より多く、特に終盤は上げ潮に乗っていると手応えを感じたという。第一声と同じ場所で行った最終日のマイク納めの聴衆は、告示日の倍近い数百人が駆け付けた。得票数は4年前から9300票伸ばし、過去最多となった。  守屋さんは地域経済の好循環を実現すると主張し、市政継続を訴えたが及ばなかった。古川さんは減税や情報公開、無駄の削減を理念とし、太陽光パネルの整備反対などを訴えたが、浸透しなかった。

◆説明責任の大切さ 浮き彫り

<解説> 初当選した市長は再選されることが多い。しかし、守屋さんは大敗を喫した。その理由は何なのか。一騎打ちだった前回、僅差で敗れた加藤さんが増やした票と、新たに出馬した古川さんの得票を合計すると、守屋さんが減らした票数とほぼ重なる。4年前、守屋さんに市政を託した人が今回は加藤さん、古川さんへ流れたともいえる。  市長選の最大の争点は、現市政の評価だった。守屋さんはデジタル関連をはじめ、国の交付金を積極的に獲得。ふるさと納税の寄付受け入れ額を任期中の毎年度、全国平均を上回る伸び率で増加させ、2019年度の3億8千万円余りから23年度の11億2千万円超(速報値)まで引き上げた。1期目の工場・研究所の誘致数は新規と拡大が計8件で、加藤市政3期目の7件と大差ないが、補助金を活用して22年度から始めた本店や支店などのオフィス誘致は25件あり、成果を挙げつつあった。  守屋さん自身、1期目を「80点」と自己採点したが、実績とは別の要因を指摘する声がある。前回市長選の際、選挙公報にコロナ対策で「ひとり10万円」と記したにもかかわらず、当選後は「市単独で10万円を支給する意味ではなく、誤解させた」と曖昧な説明に終始したことだ。現金給付を期待して一票を投じた市民は公約の撤回と受け止め、不信感を高めた。  返り咲いた加藤さんは「4年前の『ひとり10万円』問題を市民が覚えており、大差になった」と指摘。守屋さんが自民党の推薦を受けたことについても「裏金問題を誠実に説明せず、全敗した先月の衆院補欠選挙と重なり、市長選に影響した」と分析した。  加藤さんは今回の選挙戦で、過去の問題を蒸し返さなかったが、「細かい政策の是非より、もっと大きい誠実さを求める声が表れた」と話す。今回の結果は、政策や実績以上に、説明を尽くすことの大切さを全ての政治家に突きつけている。(西岡聖雄)

◆守屋さん、悔しさにじませ「結果を受け止める」

落選が決まり厳しい表情を浮かべる守屋さん

 守屋さんは落選が確実になった19日深夜、支援者が集まった市内の施設に姿を見せ、敗戦の弁を述べた。「成長戦略の方向性は間違っていないし、結果も出してきた。しかし、結果は受け止めなければならない」と悔しさをにじませ、「市長として仕事ができた、充実した4年間だった」と振り返った。  政党推薦を前回に続いて自民から受けたほか、新たに2党からも取り付けた。市議27人のうち、公明を含む17人から支持され、前回は加藤さんを支援した連合神奈川の推薦もあった。河野太郎デジタル相や小泉進次郎元環境相ら、知名度の高い応援弁士を投入するなど、組織戦を展開したが、初当選時より1万2000票近く減らす結果となった。(砂上麻子)

◆自民推薦が大差で敗北 「衆院選できる状況ではない」

 19日投開票の小田原市長選で現職の守屋さんが2万票以上の大差をつけられて敗れたことは、推薦を出した自民党に衝撃を与えた。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などが影響したという見方が出ており、県連などからは「とても衆院選ができる状況ではない」と悲鳴が上がった。  党県連の梅沢裕之幹事長(県議)は今回の結果について、旧統一教会との関係が指摘されるなどした守屋さん自身の問題に加え、「党全体への逆風も影響した」と分析した。後半国会で最大の焦点になっている政治資金規正法改正を巡る党本部の対応を「(対策を)小出しにして批判を繰り返される最悪の状況だ」と批判。6月の通常国会会期末ごろという観測もある衆院解散・総選挙に関して「とても考えられない」と話した。  党横浜市連の山下正人幹事長(横浜市議)は「普通は有利と言われる現職が惨敗するのは異常」と驚き、来夏の市長選への影響を懸念する。山中竹春市長は立憲民主党の支援で当選しており、次回は相乗りするか、対立候補を立てるかの決断を迫られるが、「街を歩いていても、有権者の冷ややかな視線を感じる。擁立作業は厳しい」と語った。(志村彰太)

◆小田原市長選確定得票

当 46,038 加藤憲一 無元<4>   25,528 守屋輝彦 無現    3,630 古川透 無新


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