南海トラフ巨大地震で津波が発生すると大阪市は高いところで3メートルから5メートルの深さまで浸水するおそれがあります。

このため大阪市は、住民などが逃げ込む場所として、耐震基準を満たした頑丈な建物を「津波避難ビル」として指定する取り組みを進めています。

大阪市が公表していることし1月時点の資料では、市内24区のうち津波避難ビルの確保を進めている12の区でビルへの避難が必要となるのは合わせて53万人余りと推計されているのに対し、すでに確保できたビルはおよそ100万人分に上っています。

しかし、NHKが12の区に取材したところ、避難が必要な人数と区全体の避難ビルの数を単純に計算すればビルが足りていることになるものの区内の地域ごとに詳しく見ると偏りがあり、10の区が「津波避難ビルが不足している地域もある」と回答しました。

このうち、住之江区、大正区、西淀川区、港区の4つの区は、詳しい計算を行って不足している地域を具体的に分析していました。

北区、此花区、浪速区、西区、福島区、淀川区の6つの区では詳しい計算はしていないものの不足地域があるとしています。

都市計画によって多くのビルが集中するエリアがある一方で、ビルが少なく住宅が多いエリアもあり、確保の難しさは地域によって異なります。

大阪市は各区ごとに企業の事務所やマンションなど民間の施設から協力を得て引き続き確保を進めたいとしています。

専門家「現状を住民に周知 より具体的に考える段階へ」

災害時の避難行動に詳しい大阪公立大学の生田英輔 教授は、大阪市の現状について「東日本大震災以降、大阪でも津波の危険性が指摘され『津波避難ビル』の確保を進めてきた。まずは区単位で多くの施設を確保するという最初の段階をクリアしたのは行政の努力のたまものだ」と評価しました。

一方で、地域によってはビルの数に偏りがあることについては、行政は民間のビルの管理者などに対し津波避難ビルに協力してもらうことで地域全体の防災力が向上することを丁寧に説明し、不安に感じている点を聞き取って解消することで津波避難ビルの確保に努めていくことが大事だとしています。

そのうえで、生田教授は「区によってはすでに多くのビルに依頼しているケースもあり、今後、津波避難ビルの数が劇的に増えることはないかもしれない。津波避難ビルには地域ごとに偏りがあり数が足りない地域があるという現状を、数字も含めてしっかり住民に周知し、命を守るための避難方法をより具体的に考える段階に入るべきだ。場合によっては、隣接する区への避難についても考える必要がある」と指摘しました。

また、住民に対しても「地域に津波避難ビルがあるのか一人一人がみずから確認することが大切だ。少ない地域の人は、他の地域よりもリスクが高いのだと認識し、少し離れた場所も含めて複数の避難先を考えておくことが大切だ。地震が深夜に起きた場合、真っ暗の中を移動して初めての場所に行くのは難しい。今のうちに避難経路の確認も含めて、歩いてみるなど備えを進めてほしい」と指摘しました。

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