NHKは6月、東京大学の関谷直也教授の研究室と共同で奥能登地域に建てられた仮設住宅の入居者を対象にアンケートを行い270人から回答を得ました。

【現在の困りごと】
この中で、現在の困りごとについて複数回答で聞いたところ
▽「居住環境」が91%と最も多く
▽「生活環境」が72%
▽「仕事」が48%
▽「医療・福祉」が47%となりました。

【居住環境について具体的に】
さらに、居住環境についての具体的な困りごとについては
▽「家が壊れて住めない」が50%
▽「壊れた家の撤去のめどがたたない」が32%などと、自宅の損壊に関する悩みが多かった一方、
▽「仮設住宅の環境が悪い」が23%
▽「プライバシーの確保が難しい」が19%と、
現在の住まいである仮設住宅についての課題もあげられました。

【復旧復興の進捗(しんちょく)】
また、復旧復興の進捗について、どのように感じているか聞いたところ
▽「進んでいない」が43%
▽「あまり進んでいない」が42%
▽「やや進んでいる」が10%
▽「順調に進んでいる」が3%と
8割以上の人が復興への実感をまだ感じていないという結果になりました。

【復興に向けて感じていること】
さらに、復興に向け感じていることを複数回答で聞いたところ
▽「また大きな地震が来るのではないかと怖い」が77%と最も多く
▽「仕方ないのでまた頑張るしかない」が46%
▽「住んでいた家に戻れないというあきらめがある」が42%
▽「今後の生活をどうすればよいか分からない」と
▽「復興後の街のイメージがわかない」がいずれも39%でした。

【今後、生活拠点を置きたい地域】
そのうえで、今後、生活の拠点を置きたい地域については
▽「被災前に住んでいた場所」が54%と最も多く
▽「前と同じ地区」が13%
▽「前と同じ自治体」が6%と
合わせて70%余りが住み慣れた町で生活を続けたいと考えていることがわかりました。

このほか、
▽「県内の別の自治体」は8%
▽「県外でもかまわない」は4%でした。

【今後の住居】
今後の住居について複数回答で聞いたところ
▽「元の場所に建て直したい」が53%
▽「元の住居を修繕したい」が14%となった一方
▽「公営住宅に住みたい」が27%
▽「集合住宅に住みたい」が8%と
戸建て住宅以外の住まいを希望する人は、およそ3割となりました。

自由記述では、穴水町の70代の女性が「1人暮らしだったので、他の人の大きな物音に慣れず、急に聞こえるので怖い。地震の後、大きな音がすると、怖くて身構えてしまう」とつづっています。

石川県珠洲市の50代の女性は「悩みながらどうしても離れられず、不安の中で過ごしています。住む方がいるかぎり、自然豊かな美しい能登を残してほしい」と記していました。

“仮設住宅の環境にストレス” 生活の負担は

アンケートに回答した輪島市の山あいに住む表令子さん(75)は、仮設住宅の環境にストレスを感じているといいます。

地震が起きる前、表さんは児童クラブの指導員として下校後の子どもたちと遊んだり勉強を教えたりしていました。

表さんは「お話したり歌を歌ったりするのが好きで地域の合唱団に入ってコンサートに出たり、近所の人たちと懇親会で集まったりして楽しんでいました」と話していました。

表さんの自宅は半壊し、車中泊や自宅の台所での避難生活を経て4か月ほど前に仮設住宅に入居しました。

しかし、仮設住宅での生活は負担が大きいといいます。

表さんは「台所は料理をするスペースが足りず、部屋の中も狭くて布団を敷くのがやっとです。入居者が少ないという理由で談話室も使わせてもらえず人との交流が減りました」と話していました。

仮設住宅に入居後、表さんは頭痛に悩まされるようになり、医師からは地震が影響していると診断されたといいます。

表さんは「食欲もなくなって、ごはんを食べないことも増えました。やる気もなくなってこまめにつけていた家計簿は5月からつけていません」と話していました。

再び地震が起こることへの恐怖もあると言いますが、表さんはまたこの町に自宅を再建したいという強い思いを持っています。

表さんは「ずっとここで育ってきたので、川も田んぼも、お友達と一緒でやっぱりここにいたいです。今は楽しいことは何にもないですが、早く楽しいことを見つけ今までの自分に戻れればいいんだけど」と話していました。

「復興が進んでいない」回答した人の現状は

輪島市の仮設住宅に入居する干場典子さん(68)は、アンケートに「復興が進んでいない」と回答しました。

干場さんの自宅は地震で全壊し、夫と91歳の義母とともに仮設住宅で3人暮らし。

夫婦で自宅の片づけを進めていますが夫の総一郎さん(72)は地震で傾いた家に入るとめまいを起こすようなったということです。

干場さんは「1月中頃から2人で片づけをしているがずっと進んでいない感じです。街を見ても1軒も解体していないと思うほど、復興の足がかりすらできていない感じがします」と話していました。

干場さんの自宅に併設していた仕事場も全壊し、なりわいだった箸を製造する機械は倒れ、完成した大量の箸が床に散乱しました。

災害ボランティアに片づけを頼むことも考えましたが、散らばった箸を細かく仕分けする必要があり、自分たちで片づける以外に方法はないといいます。

仕事を再開できる見込みは立たず、従業員を雇い続けることができなくなりました。

干場さんはことばに詰まりながら「再開のめどはさっぱり見えとらん。少しずつできることを増やしていこうと、今そういう感じでいます」と話していました。

干場さんの現在の目標は公費解体の申請が締め切られる11月29日までに片づけを終わらせ、解体の申請をすることです。

干場さんは「父親の代からずっとやってきたから輪島への思いかな。私らはすごいいいとこやと思うし、ここに住んでここで仕事をしたい」と話していました。

専門家「住んでいた場所で再建の意思 明確に」

今回のアンケート結果について、災害社会学が専門で東京大学の関谷直也教授は「都市部以外で起こった災害では復興までに時間がかかることもあって、再建を諦める人が多い。今回の能登での調査で、多くの人が自分の住んでいた場所で再建したいという意思を強く持っていることが明確になった」と分析しました。

そのうえで「今、公的に進めている復興の取り組みと、被災者個人が抱いている生活再建や住居の復旧への意思がずれているのが結果として見えてきた」と指摘したうえで「住宅再建の支援制度などの住民への情報提供が非常に不足していて、今後どのように地域の復興が進むかわからないという疑念につながっている。行政には、これからの復興の進め方や個人の生活再建にどのような選択肢があるのか、きちんと情報提供していくことが求められる」と話していました。

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