7月24日は台風3号の接近により、沖縄県の与那国島で最大瞬間風速50.2m/sを観測し、先島諸島では暴風による停電被害も発生しました。毎年のように台風の襲来により甚大な被害が出るなか、2050年の未来では台風の脅威はなくなり、台風は“恵み”の存在になっているかもしれません。「タイフーン・ショット計画」について、横浜国立大学の筆保弘徳教授にインタビューしました。(気象予報士・広瀬駿)

記録的な暴風により関東地方に甚大な被害をもたらした令和元年房総半島台風

衝撃的だった令和元年房総半島台風の現場

 2019年、令和元年房総半島台風によって千葉県では甚大な暴風被害が発生、長時間に及ぶ停電被害も出ました。筆保教授は「自分たち研究者の予想していた進路や強さの通りに台風がやってきましたが、予測以上の被害が出て、そのときに被害を止める方法が全く思い浮かびませんでした。台風のメカニズムなど研究成果が出されているのに、実際は台風の研究が社会に貢献できていないことを痛感し、敗北感みたいなものを感じました。」

 被災地に立って味わった“敗北感”が、台風被害を減らすプロジェクト始動のきっかけとなりました。

台風科学技術研究センター(TRC)センター長である横浜国立大学教育学部・筆保弘徳教授。筆者が大学院生だったころの指導教官でもある。

“台風の脅威を恵みへ”タイフーン・ショット計画

 2021年10月に横浜国立大学に台風科学技術研究センター(TRC)が設立されました。日本では初となる台風専門の研究機関で、国内の様々な大学や民間企業と連携して、台風に関する研究が行われています。センター長である筆保教授らが取り組むプロジェクトの一つが、“タイフーン・ショット計画”です。「台風を完全になくすわけではなく、人間の力で少しでも台風を弱めて、日本に来たときには100の強さだった台風を90や85ぐらいにしたい。そうすると、いまのインフラでも耐えられ、台風被害から守られるのではないか。」と筆保教授は説明します。風のパワーの大きさは、風速の2乗で比例します。風速が2倍になれば風のパワーは4倍に、風速が3倍になれば風のパワーは9倍となります。風が強くなればなるほど、暴風被害は指数関数的に拡大します。裏を返せば、少しでも台風の風を弱めることで、被害は大きく軽減することが期待されます。

2019年10月9日 令和元年東日本台風の衛星画像 (気象庁ホームページより)

半世紀前にアメリカで熱帯低気圧を弱める実験が行われていた

 実は、台風の勢力を落とす研究は、半世紀前に同じ熱帯低気圧のハリケーンに対してアメリカで行われていました。プロジェクト期間中に発生した3つのハリケーンで実証実験を行い、そのうち1つのハリケーンが弱まったという報告がありました。しかし、実際に人間の介入の効果がどれほどか判定できず、それがプロジェクトのうまくいかなかった原因となりました。

 筆保教授はいいます。「半世紀前にできなかったことは、コンピューターの中での影響評価です。いまでは数値シミュレーションというコンピューター上で台風を再現することができます。コンピューターの世界で発生させたバーチャル台風に人間が介入した場合と、しなかった場合の影響を比較できるようになりました。」

 コンピューターを最大限活用することで、半世紀前にアメリカの研究者が挑んだテーマに、現代の日本の研究者たちが立ち向かっています。

タイフーン・ショット計画で考えられている台風制御・発電の主な手法イメージ

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