未明から農作業 その訳は?

全国有数のオクラの産地、鹿児島県指宿市です。

日の出前の午前3時ごろ、周辺が暗い中、収穫を行う1人の男性、西中川祥並さん(36)です。高齢の両親とともにオクラを生産しています。

日中の時間帯を避けて日の出前から作業を始める西中川さん、理由は熱中症を防ぐためです。

オクラの収穫の最盛期は7月から8月にかけてで、西中川さんも5年ほど前までは朝6時ごろから収穫作業をしていましたが、暑さが厳しさを増す中、身の危険を感じるようになったといいます。

そこで、近隣農家からのアドバイスを受けたことをきっかけに、日の出前に収穫を行うようになりました。

ヘッドライトでオクラを照らしながらヘタの部分にハサミを入れ、大きさや傷の状態などを1つずつ確認するため、明るい時間帯に比べると作業効率は落ちますが、熱中症を防ぐためにはやむを得ないと考えています。

農林水産省によりますと、おととしまでの10年間に農作業中に267人が熱中症で死亡していて、そのうちの88%が70代以上だということです。

農林水産省などは農業の熱中症対策の強化が急務だとして、ことしからすべての農業者を対象に熱中症予防の研修を受けるよう促したり、対策に役立つ「ファン付きウェア」などのアイテムやチェックシートによる自己点検の方法などを紹介したりしています。また、若い農業者を中心に、作業している高齢者に積極的に声をかけてもらう運動にも取り組んでいるとしています。

オクラ農家 西中川祥並さん
「ことしの夏の暑さは特に異常だと感じています。これ以上暑くなったら両親も高齢で心配なので畑の面積を減らすことを検討しなければいけないと感じています」

仕事場での熱中症 7月は過去5年間で最多

連日の危険な暑さで、仕事場での熱中症リスクが高まっています。

厚生労働省によりますと、仕事場での熱中症によって死亡したり休業を余儀なくされたりした死傷者数は月別の速報値で、ことし1月から5月は合わせて19人、6月が40人、7月は188人でこのうち10人が死亡したということです。先月の死傷者はこの5年間で7月としては最も多くなりました。

また、去年までの10年間に仕事場で熱中症によって死亡した人は223人で、業種別に見ると建設業が最も多く96人、次いで警備業が30人、製造業が28人、農業が15人などとなっています。

一方、総務省消防庁がまとめている仕事中に熱中症で病院に搬送された人を場所別に見ると、ことし4月末から今月18日までに搬送された8500人余りのうち、道路の工事現場や工場、作業所などが7031人、田畑や森林、海などで農業や水産業などを行っていた事例が1646人となっています。

死傷者が最多 対応迫られる建設業

仕事場での熱中症による死傷者が最も多い建設業では対応を迫られています。

大手ゼネコン「大成建設」の東京・新宿区の大規模な再開発の現場では、ビルの解体作業に毎日およそ500人が作業に当たっています。

ことしは31以上で「危険」とされる暑さ指数が32を超える日もあり、屋外での朝礼の時間を通常の半分に短縮して行い、現場の責任者が「暑さと湿気から自分の命を守る行動をとってほしい」と呼びかけていました。

この現場では冷房が効いた「クーリングルーム」やミスト扇風機、水分補給のサーバーを設置、かき氷の配布も行われ、さらに、熱中症の症状が出た際にはすぐに対応できるよう看護師が常駐する部屋も完備されています。

大成建設では去年、熱中症の発生がおととしからおよそ2倍になったことから、ことし初めて暑さ指数による社内独自の行動指針を決めました。

指針では暑さ指数の予測が28以上の場合、原則として通常の休憩に加えて1時間に1回、10分程度の休憩とこまめな水分・塩分の補給、31以上の場合、昼休みを延長して最高気温下での作業を避けることなどとしています。

そして、「暑さ指数」を誰もが確認しやくするため、通路にプロジェクターで暑さ指数と危険の度合いを映し出し、目に入りやすくする工夫や、各作業場をまとめる担当者が暑さ指数計を携帯し、基準値を超えるとアラームが鳴る設定にしているほか、担当者のタブレット端末に、1日に3回、気温や暑さ指数などのメッセージを送り、周りの作業員への注意喚起を促しています。

作業場の担当者は「解体現場は重機も動いているので熱気もあって暑いうえ、体を動かすことによって汗が出るため、気温が高いのかどうかがわかりづらい。そのため、計測器の数値を確認したりアラームが鳴ったりすることで気温や暑さ指数がわかるので、休憩をとるようにしている」と話していました。

統括所長の八須智紀さん
「特に働いていると作業に没頭するし、なかなか自分のタイミングで休めないことがあるので、数値での確認や、アラームが鳴ることで啓発することが非常に重要だ。さらに気温が上昇してくると作業の能率も下がるだけでなく命にも関わるので、建設業にとっては大きな課題。作業の時間をずらしたり、直射日光を浴びる時間を制限したりするなどあらゆる観点から対策を検討しなくてはいけない」

過酷な小規模現場の現状は

東京都や神奈川県、埼玉県などで小規模な建設業の組合員が多く所属する「首都圏建設産業ユニオン」によりますと、『町場の建築現場』と呼ばれる小規模な現場で働く組合員からは休憩しようにも休憩する場所がないという声が寄せられているということです。

例えば、住宅の建築現場や、外壁の塗装、屋根の修復、それに道路舗装工事などの作業は、住宅街や道路上のため休憩場所の確保が難しく、近くに車を止めるスペースや日陰もなく、車内で涼もうとしても機材や荷物などが置かれたり、作業員が複数いると入りきれない場合もあるということです。

また、マンションの室内のリノベーションなど冷房が設置される前の内装工事では、屋内作業で熱が逃げないため蒸し暑さで汗が出にくくなり、気を失って倒れたという事例もあったということです。

専門家「熱中症は対策で防げる災害」

「労働安全衛生総合研究所」の齊藤宏之 ばく露評価研究部長
「熱中症を防ぐためには水分や塩分補給に加えて、仕事場に体を休めて冷やすことができる休憩所を、出来る範囲で設置することが重要だ。大規模な建設現場では、ほとんどが熱中症対策ルームなど冷房が効いていて冷たい飲み物も用意された形で休憩所が整備され、死亡や重症化を防いでいるのでひとつの理想の形だ。建設業の中でも個人の住宅や道路工事など小規模な現場や警備業、農業など屋外でなおかつ休憩所の設置が難しいところでは、重症化するケースが後を絶たない。例えば農業の場合は自宅から農地までが遠かったり近くに休憩所がなかったりすると熱中症のリスクは上がってしまう」

その上で、こうした小規模な現場でも、できるかぎり休憩所の設置が重要だとして、トラックや自家用車の車内で冷房をかけて休憩したり、建設現場では足場材や防水シートなどの資材を使って簡易的な休憩所を作ったりするケースもあるとしています。

「農業は自然相手なので、夏場の時期の作業を完全に避けるということは難しいため、夜間や早朝に作業時間をずらしていくことは現実的に必要になってくると思う。一方、建設業では、夏の期間はフルタイムで働かなくても間に合う納期にするなど、発注側に意識を変えてもらうことも必要だ。また、フルタイムで働けないと作業員の収入が減る問題が発生するため、こうした課題は国全体で考えていかなければならない」

「熱中症は非常に怖い災害だが、きちんとした対策によって、必ず防げる災害だ。熱中症で死亡する人は年間1000人の状態がここ数年続き、職場よりも自宅などで死亡する人が多い。仕事でも、自宅でも、学校でも対策を着実に行うことが重要だ」

「応急処置」と「病院搬送」のタイミングは

どのような症状の場合に熱中症の疑いがあるのか、応急処置、そして病院に搬送するべき状況は…。下の図を保存しておいてください。

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