【経緯】初の臨時情報 707市町村に備え呼びかけ
海水浴場では対応分かれる
「危機対応と通常業務 同時に…」職員78人の徳島 牟岐町
愛媛 西予 特別養護老人ホーム入所者の避難計画を見直し
注目
専門家「スタートラインに立てた」
先月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。臨時情報が出たのは初めてで、国は防災対策の推進地域に指定されている29都府県の707市町村に対して、1週間、ふだんの生活を続けながら地震への備えを改めて確認するよう呼びかけました。しかし、初めての発表に、各地では各地では対応がわかれる場面があったほか、課題も浮き彫りにもなりました。
各地の海水浴場では、閉鎖したところがあった一方、避難経路を確認するなどしたうえで通常どおり開設したところもあり対応が分かれました。
<神奈川 平塚の海水浴場 1週間閉鎖>南海トラフ巨大地震の防災対策の推進地域に指定されている神奈川県平塚市の海水浴場は、「臨時情報」の発表を受けて先月9日から15日までの1週間閉鎖しました。市によりますと、巨大地震の際に津波の浸水想定区域に含まれるため、安心と安全を最優先に考えたということです。閉鎖を知らずに訪れた人からは「日向灘で起きた地震でなぜ平塚市の海水浴場に影響が出るのか」とか「ほかの自治体の海水浴場は入れるのになぜここだけ入れないのか」といった声が寄せられ、「臨時情報」がその後の巨大地震について注意を呼びかける内容であることなどを説明して理解を求めたということです。
<和歌山 白浜 すべての海水浴場を閉鎖>白浜町も町内4か所すべての海水浴場を閉鎖し、大江康弘町長は「苦渋の決断だったが、観光客や町民の安全を第一に考えた判断で、ご理解いただきたい」と述べました。和歌山県内では、海水浴場の閉鎖やイベントの実施などをめぐる各地の対応が分かれ、岸本周平知事は定例の記者会見で「ある程度統一的な物差しを作ってもらえればありがたい」と述べ、国で基準を作るよう求めていく考えを示しました。
<神奈川 鎌倉の海水浴場 通常どおり開設>一方、同じく推進地域に指定されている鎌倉市は市内3か所の海水浴場を通常どおり開設しました。市によりますと「臨時情報」の内容を精査し、海岸部の地形が似た近隣の自治体の状況を確認するなどしたうえで判断したということで、地震の翌日には、海の家の運営者で作る組合やライフセーバーの協会、警備会社に連絡して津波の避難経路や避難場所を確認し、海水浴場内での放送で注意を呼びかけてほしいなどと要請したということです。
職員78人の徳島県牟岐町は最大13.4メートルの津波が想定されていて、事前に臨時情報が出された際の対応を計画やマニュアルで定め、ことし6月には勉強会も開いて職員に共有していました。
先月8日、臨時情報の発表と同時に災害対策警戒本部を立ち上げ、防災用の備品を災害時の拠点になる小学校に移したり、公用車を浸水域の町役場から高台に移動させたりする対応をとりました。
また、ふだん夜間の当直は2人ですが、町長を含む6人に増員したほか、職員の一部を自宅待機にして人員を分散させたということです。一方、頭を悩ませたのは通常業務との両立です。今回の臨時情報では日常生活を行いつつ、巨大地震に備えるよう呼びかけられたため、ふだんの役場の業務を行いながら警戒を続けることが必要で、町では1週間のうちに態勢を途中で見直しました。
当直を6人から危機管理の担当1人を含む3人に縮小、業務に必要な公用車は日中のみ高台から役場に戻し、使用後はすぐガソリンを補充して4分の3の残量を確保し、休日前は満タンにするなど新しいルールを決めたということです。
今回の対応について、町は職員から聞き取りするなど検証を始めています。聞き取りを受けた女性職員は「役場の少ない人数で住民の事前避難を伴う臨時情報が出た場合、対応できるか不安がある。備蓄の再点検などできるところから始めたい」と話していました。
防災担当の白木健治危機管理監は「危機対応と通常業務を同時に行うことが今回、もっとも難しかった。職員から上がった意見を聞き、定期的に研修や訓練を続けたい」と話していました。
津波の浸水想定区域にある愛媛県西予市の特別養護老人ホームでは、入所者の安全な避難に向けた計画の見直しを始めています。
特別養護老人ホーム「皆楽園」は介護が必要なお年寄り60人が入所していて、津波が予想される際は車で5分ほどの高台にある農道まで避難することにしています。入所者のほとんどが車いすを利用しているため、避難には多くの人手と車両が必要ですが、車いすを載せられる車が3台しかないほか、職員のほぼ半数が町外から通勤しているため、災害時に入所者をどう安全に避難させるのかが課題となっています。先月の臨時情報の発表を受けて、施設では家具の固定や備蓄の確認を進めているほか、新たに災害時の計画を見直すことになり、4日に職員による打ち合わせが行われました。
この中では、災害時にすぐに駆けつけられる職員を把握するため、連絡体制を整備することが決まったほか、再び臨時情報が出され事前避難を呼びかけられた場合の対応も話し合われました。職員からは「避難には相当な時間がかかるため、ほかの高齢者施設への事前避難を考える必要がある」という意見が出された一方、「避難先も入所者がいて受け入れられないおそれがあるほか、避難で環境が変わることで入所者の体調悪化につながりかねない」などという意見も出されていました。施設では今後も議論を重ね、年内には計画を見直すことにしています。入所者で車いすを使用している横山雅枝さん(86)は「足が動かずに係の人の指示に従うしかないので臨時情報が出てからとても心配で怖かったです」と今回の臨時情報の発表を振り返りました。そのうえで、巨大地震の発生に備えた事前の避難については「知っている人がそばにいる環境で、スタッフの方を信頼しているので、事前避難をして近くの人と離れてしまうのは不安です」と話していました。
岡本修一施設長は「何が現実的な対策としてできるのか、課題を洗い出さないといけない。利用者の安心安全を守る体制作りを進めたい」と話していました。
臨時情報について、南海トラフ地震対策の国の作業部会でとりまとめ役を務める名古屋大学の福和伸夫名誉教授が都内の日本記者クラブで会見し「周知が進んでいなかった中で、国民の行動もメディアの伝え方も適切だったと思う」と述べました。海水浴場を閉鎖する動きも見られるなど、各地で対応が分かれたことについては「今回多くの人が臨時情報の意味を理解しスタートラインに立てた」と指摘しました。そのうえで「あいまいな情報をもとにどう被害を減らすか、正解の無い答えを探している。国民全体が当事者となって一緒に解決策を考えるのが望ましい」と述べました。今回初めて出された「臨時情報」をめぐっては、自治体も手探りの中で判断を迫られ対応が大きく分かれました。地域の実情に合わせたそれぞれの課題を検証し、不断の見直しを進めていく姿勢が求められます。
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