閉鎖?予定どおり? 自治体で対応分かれる

先月8日、日向灘で発生したマグニチュード7.1の地震を受け、南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まったとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。

国は、防災対策の推進地域に指定されている29の都府県の707市町村に1週間、地震への備えを改めて確認してほしいと呼びかけました。

期間中、祭りなどを津波からの避難経路を伝えたうえで予定どおり開いたところがあった一方、海水浴場を閉鎖したところもあるなど対応は分かれ、キャンセルが相次いだ宿泊施設もありました。

また、専門家が行ったアンケートの結果では、本来求められた、家具固定の確認などの行動を取った人は多くないものの、地震予知の情報として受け取ったとみられる人が多数いるなど、情報の意味が十分に伝わっていないのではという課題も浮かび上がっています。

【愛媛 伊方町】“方針決めていなかった” 地域防災計画改定へ

愛媛県伊方町は、8000人近くの住民のおよそ9割が南海トラフ巨大地震の津波の浸水想定区域に住んでいます。

伊方町では地域防災計画を2016年度から更新しておらず、2019年から運用が始まった「南海トラフ地震臨時情報」の対応については具体的な方針を決めていませんでした。

このため先月8日に「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表された際には、その場で判断して住民に防災行政無線で備えを呼びかけたほか、職員を24時間体制で配置するなどの対応に当たったということです。

ただ、今回の臨時情報よりも巨大地震のリスクが高いと判断された際に発表され、住民に事前避難などを呼びかける「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」の対応については、事前に方針を定めておかなければ混乱が予想されるため、地域防災計画に盛り込むことを決めたということです。

具体的には、避難指示を発表して防災行政無線や職員の巡回で避難を呼びかけるほか、災害対策本部などを立ち上げて2週間は24時間体制で職員を配置するということです。

伊方町では今年度中に地域防災計画を改定するとしていて、総務課の林善法危機管理監は「高齢者が多い町だが、1人の犠牲者も出さないという思いで対応していきたい」と話していました。

【徳島】阿波おどりを開催も 課題浮き彫りに

徳島市の阿波おどりは8月11日から5日間、臨時情報が発表される中で開催され、実行委員会によりますと、期間中の人出は推計で102万人に上りました。

会場の中心市街地はほぼ全域が津波浸水想定区域にあたり、市と実行委員会は、去年の人出を元に避難者数を想定したうえで、会場から近い津波避難ビルや高台への避難ルートを示したマップを作って演舞場などに掲示しました。

しかし一部の会場で避難のための通路が狭かったと指摘されていることや、避難所に観光客の分の水や食料が備蓄されていないことなど、課題が浮き彫りになりました。

県は災害時に各市町村と協力して観光客の支援にあたるよう、検討を進めるとしています。

県防災対策推進課の披田毅課長は「いつもより人が多いときの想定をして訓練し、対応を改善していきたい」と話していました。

【高知 黒潮町】事前避難可能な避難所を開設したが-

高知県の沿岸部にある黒潮町は、臨時情報の発表を受けて町内全域に「高齢者等避難」の情報を出すとともに、229人いる要支援者に連絡を取り、地震が起きる前の事前避難を呼びかけました。

国のガイドラインでは今回発表された「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」に伴う事前避難は求めていませんが、町内では全国で最も高い最大34メートルの津波が想定されるなど、巨大地震が発生した際には甚大な被害が出るおそれがあるとして、町はより高い防災対応を取ることを決めていたということです。

その結果、高齢者など7人が、町が開設した避難所に避難し、職員が24時間体制で運営にあたったということです。

一方、町は臨時情報に伴う避難においては災害後の避難のような食料の提供などは行いません。

また、避難所にはエアコンが設置されている施設もありますが、入浴などはできず、自宅との環境の違いに疲れ、避難をやめる人が相次いだということです。

このため町は避難所で対応した職員からヒアリングを行うなどして、1週間程度の事前避難が可能な避難所の環境整備に向けて検証を進めることにしています。

黒潮町情報防災課の村越淳課長は「町民に臨時情報の避難は災害後の避難と違うことを理解してもらうとともに、避難所の環境の悪さを理由に避難しない人が出ないようプライバシー確保や備品の充実に取り組みたい」と話していました。

実際に事前避難した高齢者は

黒潮町では8月末の時点で高齢化率が46%を超えています。今回、実際に避難した人を取材すると高齢者の事前避難の難しさが見えてきました。

臨時情報の発表を受け、宮地朱美さん(78)は友人の宮地尋美さん(84)を誘って避難しました。

2人とも町の沿岸部に1人で暮らしていて、地震が起きた場合は津波からの避難が難しいと考え、ふだん飲んでいる薬などをまとめ、避難所に向かいました。

足が不自由なため、食料の買い出しも役場の職員に代行してもらうなどしてすごしていましたが、慣れない環境でのどを通りにくかったということです。

また、自宅と違ってトイレまで距離があり、夜中でもトイレに行くときは職員を起こして付き添ってもらいました。

体だけでなく精神的な疲れもたまり、避難を始めて3日目の朝に2人はとうとう体調を崩し、避難をやめて自宅に戻りました。

宮地朱美さんは「台風であればいつくるか分かりますが、地震は分からないので疲れます。地震への不安はありますが、避難所はあまり眠れませんし、2、3日の避難が限界です」と話していました。

専門家 “事前避難について具体的にイメージすることが大切”

黒潮町では今回の経験を検証して防災力向上につなげようという動きが住民レベルでも広がっています。

芝地区では、9月1日に自主防災組織が臨時情報の勉強会を開き、住民およそ30人が集まりました。講師はこの地区で住民と防災活動に取り組んでいる九州大学の杉山高志准教授が務めました。

杉山准教授は今回の臨時情報よりも高い防災対応が求められる「巨大地震警戒」の情報の発表を念頭に置いて、事前避難について具体的にイメージすることが大切だと訴えました。

そのうえで1週間の避難が難しいと感じるのであれば、夜間だけ避難所で過ごす、遠くに住む親類の自宅に避難するなど、それぞれの事情に応じた避難行動をとってほしいと呼びかけました。

70代の女性は「夫は体が不自由なので、事前避難する際に必要なものについて今のうちから考えたいです」と話していました。

杉山准教授は「今回は何も起きなかったから次もないだろうと『オオカミ少年』になったら情報の本来的な意味がなくなる。臨時情報が発表されるたびに日頃の生活を見直して防災の備えをしてほしい」と話していました。

内閣府 市町村などにアンケート実施し改善に向けた検討へ

いっぽう、南海トラフ地震の防災対応を所管する内閣府は、呼びかけの対象となった707の市町村や、運輸、観光、小売りの事業者などに今月中にもアンケートを行って、防災計画の策定状況や受け止めを調べるとともに、専門家でつくるワーキンググループの意見もふまえ、情報の伝え方などの改善に向けた検討を進めることにしています。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。