金沢大学脳神経内科学の小野賢二郎教授や篠原もえ子准教授などのグループは、ことし4月に能登半島地震で大きな被害が出た七尾市中島町で認知機能が正常な1411人の高齢者を対象にアンケートを行いました。

「地震の前と比べて物忘れが増えたと思うか」をたずねたところ、835人が回答し、「とてもそう思う」「少しそう思う」と答えたのが、あわせておよそ31%となりました(回答者・およそ260人)。

また「地震の前と比べて睡眠の質に変化があったか」を聞いたところ、回答した840人のうち「とても悪くなった」と「少し悪くなった」と答えたのは、あわせておよそ39%に上りました(回答者・およそ330人)。

さらに「地震の前と比べて座っている時間が増えたか」をたずねたところ、回答した827人のうち「増えた」と答えたのはおよそ25%となりました(回答者・およそ210人)。

この研究グループは18年前からこの地域で調査を続けていて、親戚や近所などとの交流について今回の調査と過去の結果を比較しました。

「この1か月間同居していない親族や友人などとどの程度交流があったか」については、「ほとんど毎日」と回答したのは今回の調査ではおよそ14%で、2021年からおよそ2年間かけて行った調査と比べると、20ポイント近く減少していました。

研究グループは、地震による被害や避難生活などで周囲との交流が大幅に減る傾向がみられるとしていて、東日本大震災などの被災地では、地震のあと高齢者の認知機能が低下するケースが確認されているということです。

小野教授は今回の調査結果は途中段階でさらに精査が必要だとしたうえで、「生活環境の変化や避難生活などによって社会的交流が減り孤独感が増えるなどしたため、睡眠の質が悪化したり、物忘れが増加したりするなど認知機能が低下したとみられる。認知機能の低下を防ぐためには、近所の人などとの交流を増やし体を動かす機会をつくることが重要だ」と話しています。

高齢者“外出や会話の機会が減った”

元日の能登半島地震で被災し避難生活を続ける高齢者からは、周囲との交流が減少し外出や会話の機会が減ったという声が聞かれます。

民間の賃貸住宅を仮設住宅として利用する「みなし仮設住宅」に暮らす金沢市の折坂敏男さん(77)と妻の喜美子さん(77)は、輪島市町野町の自宅が地震で全壊しました。

2月から金沢市で生活を続けていて、なんとか自宅に戻りたいと考えているもののめどは立たず、慣れない地域での生活が続いています。

折坂さんは住宅などの外壁にしっくいなどを塗る左官の仕事をしていたということですが、地震のあと仕事はできなくなり、日課の犬の散歩など以外は多くの時間を家で過ごしています。

また、金沢市には知り合いも少なく、市の社会福祉協議会の職員などが定期的に訪問してくれているものの、地震の前にはあった近所の住民や親戚との交流の機会などは以前より減ったといいます。

折坂さんは「地震のあと自宅を離れてからは眠れない日が増えたと感じています。家にいてもやることがないので、ただ過ごすだけという日が多いです」と話しています。

妻の喜美子さんは「デイサービスを利用していますが、地震の前と比べて人と話す機会は減りました。地元では隣の人がいれば『おはよう』と言うけれど、それもないので寂しいです。社会福祉協議会のスタッフが来てくれるので夫も話す機会ができて笑うこともできるので感謝しています」と話しています。

社会福祉協議会などは見守りを強化

石川県によりますと1月の能登半島地震でほかの自治体へ避難する「広域避難」をしている被災者は、およそ9000人に上っているということです。

社会福祉協議会などは生活環境に慣れず体調が悪化する可能性があるとして、見守りの活動を強化しています。

金沢市社会福祉協議会では、ほかの自治体から市内に広域避難しているおよそ1600世帯を対象に、定期的に訪問する見守りの活動を続けています。

市の社会福祉協議会ではおよそ10人の職員が見守り活動を担当しているほか、各地から社会福祉士の応援を受けて、特に高齢者の世帯では訪問する回数を増やしています。

職員などは被災者の生活や健康状態を確認し、会話を通じて興味や関心などを聞くことで外出の機会や外部とのつながりを増やそうと取り組んでいます。

しかし、被災したことに加えて精神面でも影響を大きく受け、体調を崩したり認知機能の低下で日常生活にも支障が出たりするケースが出ているということです。

また、認知症の症状が進行したという相談も寄せられているといいます。

金沢市社会福祉協議会では、高齢の被災者が日常生活を送ることが難しくなった場合には地域の包括支援センターや医療機関などにつなぐ対応を取っているといいます。

金沢市社会福祉協議会の北脇宜和 地域福祉課長は「人とのつながりがなくなり、認知症が進行したり病気になったりするのではないかという不安の声をよく聞きます。被災者が孤立するとふさぎ込んでしまうと思うので、孤立させないよう取り組みたい」と話しています。

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