8年前の熊本地震では、観測史上初めて、同じ地域で震度7の揺れを2度観測し、災害関連死を含めて熊本と大分であわせて276人が死亡したほか、熊本県内では19万8000棟余りの住宅に被害が出ました。
このうち、熊本市では12万棟余りにのぼりましたが、市によりますと当初およそ7万の調査件数に対し、対応できる職員は30人余りしかいませんでした。
このため調査が進まず、被災者が公的な支援を受けるのに必要な「り災証明書」の発行が遅れたということです。
この教訓を受けて市は、2018年からすべての部署の職員を対象に被害の認定調査の研修をはじめました。
これまでにおよそ200人が受講し、去年の受講者の中には観光や人事を担当する職員も含まれていました。
市は、受講した職員の名簿を作り、市内で災害が起きた際に速やかに調査に着手するとともに、ほかの自治体の応援にも対応できるようにしているということです。
体制強化に携わった熊本市の担当者は
体制強化に携わった熊本市税制課の村田絢也副課長は、「熊本地震のときのような苦労をしないよう、日頃の備えを心がけていきたい」と話していました。
熊本の教訓を能登半島地震で役立てる
熊本市の経験や教訓は、ことし元日に起きた能登半島地震の被災地で役立てられました。
能登半島地震で石川県内では7万6000棟余りの住宅が被害を受けました。
このうち奥能登地域の珠洲市では8000棟近くにのぼり、職員の手が足りなかったうえ、土砂崩れなどで道路が寸断し、立ち入れない場所も相次ぎました。
ドローン使い遠隔で被害調査 国と珠洲市 全国で初
このため、内閣府と珠洲市は被災地以外の自治体や民間企業に協力を求め、ドローンで撮影した画像をもとに遠隔で被害を調査する全国で初めての取り組みに乗り出しました。
ドローンの操作や撮影はNTT東日本が行い、さまざまな角度から撮影した住宅の画像を、自治体の職員がパソコン上で判別する仕組みです。
この遠隔支援で声がかかったのが、熊本地震のときに膨大な数の調査を経験した熊本市でした。
熊本地震のあとに研修を受けた職員も参加し、およそ800キロ離れた住宅の被害を6段階に分けて認定していきました。
熊本地震や能登半島地震で住宅の被害調査にあたった熊本市税制課の村田絢也副課長は、「遠隔での支援は初めての試みだったが、熊本地震の経験をもとに確認すべきポイントを事前に理解できていたので、スムーズに調査ができた」と話していました。
認定作業には、ドローンで撮影したNTT東日本のグループ会社も加わり、8日間でおよそ300件を調査してり災証明書の発行につなげました。
一方、熊本市などによりますと、▽密集した住宅地では上空から壁の一部が見えないほか▽建物の傾きを測定できないなど課題も見つかったということです。
遠隔での調査の支援は東京都も行ったということで、内閣府は、全国の自治体に取り組みを周知し迅速に調査できる環境を整えていきたいとしています。
「住宅の被害認定調査」とは
災害時の住宅の被害認定調査は、被災者が給付金の受給や税の減免措置など公的な支援を受けるために欠かせない手続きです。
調査には、事前に研修を受けた自治体の職員などがあたり、外壁や屋根、基礎などの損傷、建物の傾斜などを目視や計測機器で調べます。
そのうえで、国の基準に基づいて「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「一部損壊」の6段階に分けて判定します。
認定の内容に不満があるとして被災者から申請があれば、2次調査として住宅の内部なども調べます。
こうした調査結果をもとに、公的な支援を受けるのに必要なり災証明書が発行されますが、過去の災害でも職員の数が不足するなどして調査の遅れが課題となっていました。
専門家「遠隔支援が大事 次の災害に備えていくことが必要」
住宅の被害認定調査の遠隔支援について、災害時の応急対応に詳しい防災科学技術研究所の宇田川真之特別研究員は、「コロナ禍の災害対応で遠隔支援の必要性が指摘されていたが、当時は電話で助言することくらいしかできていなかった。現場で行われる判定作業にまで遠隔支援が行われたのは今回が初めてだ」としています。
そのうえで、「日本で多くの災害が懸念される中、南海トラフ巨大地震では極めて広範囲にわたって被災し応援職員の派遣が難しいため遠隔支援が大事になってくる。今回の取り組みで改善していけることを教訓にして次の災害に備えていくことが必要だ」と話しています。
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