番組「世界遺産」はこの4月から、世界遺産に詳しい俳優・鈴木亮平さんを新たに番組ナビゲーターとして迎えました。通常の放送に加えて、鈴木さん自らに世界遺産の屋久島を現地取材してもらうなど、特別企画も制作しています。いま進めているのが「世界遺産とは何なのか」を改めて考える、「鈴木亮平と学ぶ世界遺産」という企画です。
「世界遺産は不動産、つまり動かせないもの」
世界遺産には意外と知られていない面白さがいろいろあって、たとえば「世界遺産は不動産、つまり動かせないもの」という大前提があります。具体例だと中国に「四川省のジャイアントパンダ保護区」という自然遺産がありますが、世界遺産として登録されているのはパンダという生き物自体ではなく、90万ヘクタール以上もある山と森の大地です。その土地(不動産)を世界遺産として登録・保護することによって、そこに暮らすパンダを守っていこうというシステムなのです。
今回の特別企画「鈴木亮平と学ぶ世界遺産」では、こうした「世界遺産の基本的な面白さ」を再チェックしてるのですが、制作していて番組のプロデューサーになったばかりのことを思い出しました。当時は突然の人事で、全く世界遺産のことを知らない門外漢のまま担当し、一から学ぶ日々…
「まずは世界遺産委員会に行くぞ」
と先輩プロデューサーに連れられて、着任直後にパリに出張。
世界遺産委員会は、新しい世界遺産を決定する最も大事な国際会議で、年に一回、夏に開かれます。開催地は固定されておらず、世界遺産のある都市で持ち回りとなっており、この年、2011年はパリのユネスコ本部で行われました。
世界遺産の定義「顕著な普遍的価値」を持つものとは?
この会議で飛び交っていたのが「オーユーヴイ(OUV)」という単語。「この世界遺産候補にはオーユーヴイが認められない」とか、「オーユーヴイがあるので、世界遺産にふさわしい」とか、各国代表団が議論しているのです。これは「Outstanding Universal Value」の略で、日本語では「顕著な普遍的価値」と訳されています。実はこれは世界遺産の定義といえるもので、顕著な普遍的な価値を持つものこそが世界遺産として登録されるのです。しかし世界遺産門外漢だった駆け出しプロデューサーにはチンプンカンプンで、「ケンチョナフヘンテキカチって何ですか?」と先輩プロデューサーに聞いたところ、「どこの国の人でもすごい価値があると認めるものじゃないか」との答えでした。
今回の特別企画を作るにあたり、鈴木亮平さんとも「顕著な普遍的価値」という言葉を一般の人にも分かりやすく説明するには、どんな表現にすれば良いのか話し合いました。結局、「どんな国の人が見ても、他に類を見ない価値を持つ」という表現にしようということになりました。13年前のパリで教わったことが、反映してます。
また「クライテリア(Criteria)」という単語も、会議で飛び交っていました。これは「登録基準」と日本語では訳されます。
「この候補にはクライテリア1は当てはまらない」とか、「この場合はクライテリア2ではなくクライテリア3では…」とか、委員国のメンバーが議論しているのです。
世界遺産の「クライテリア=登録基準」 小笠原諸島では…
世界遺産は「顕著な普遍的価値」を持つものですが、それを具体的な基準にしたのがクライテリア=登録基準です。文化遺産は6つ、自然遺産は4つ、全部で10の登録基準があって、世界遺産になるためには1つ以上の基準を満たしていることが条件となります。つまり各国が世界遺産を推薦するときに、「この候補はこの登録基準に当てはまるので、世界遺産にふさわしい」とプレゼンする必要があるのです。
番組を担当するまでは「世界遺産はユネスコの人たちが適当に決めているのでは…」といういい加減なイメージを抱いていたのですが、初めて世界遺産委員会に来てみてビックリ。世界中から集まったメンバーがきわめて厳密、かつ科学的に審議して決めていたのです。
こんなふうに門外漢のときに初めて知った世界遺産の面白さ、鈴木亮平さんと作る特別企画で改めて伝えることができればと思っています。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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