著書を手にする群馬大の高井ゆと里准教授=前橋市荒牧町4の群馬大で2024年5月21日午後0時10分、加藤栄撮影

 出生時に割り当てられた性別とは異なる性別で生きているトランスジェンダー。当事者への差別がなくならないことを受け、群馬大の高井ゆと里准教授(哲学)らは、当事者の現状や持たれやすい偏見を解説する本を出版した。高井准教授は「性別を一から捉え直し、トランスジェンダーへの誤解や偏見を取り除く本になれば」と話している。

高井ゆと里准教授らが執筆したトランスジェンダーQ&A=前橋市で2024年5月26日午後5時2分、加藤栄撮影

 本の題名は「トランスジェンダーQ&A」。はじめに、男女の性差や二つの性別による区分が社会で重んじられている一方、生活の中では戸籍や見た目、自己申告などその時々によって用いられる性別の情報が異なることを指摘。その上で、トランスジェンダーの生活や困りごとを紹介し、偏見や誤解への対応を解説している。

 たとえば、「トランスジェンダーのせいでトイレが危険になりませんか?」との質問には、公共のトイレは見た目の性別に準じて利用されていることを説明し、「当事者もそれに従い、周囲からその性別で見られない場合は性別不問のトイレを利用している」と回答する。そして「特定の過去を持つ人間を狙い撃ちして排除するのは不合理な差別」と解説する。

 高井准教授と共著者で主夫、作家の周司あきらさんは、ノンバイナリーとトランスジェンダーの当事者。2023年6月に「LGBT理解増進法」が成立した際、国会やSNS(ネット交流サービス)で「男性が『心は女だ』と言えば女湯に入れる」「女性トイレがなくなる」など、事実と異なる情報や実際の運用からかけ離れた誤解が広がったことを受け、出版を決めた。

 執筆するにあたっては、2人でオンラインやチャットでの会議を重ね、ジェンダーに関する研究結果や自身の経験も役立てた。高井准教授は「性別とは何かをうまく理解できずに差別が生まれていると感じたため、基礎的な部分をしっかりと解説した」と語る。

 本は当事者や教育関係者だけでなく、友人や家族など身の回りの人がトランスジェンダーに関する差別的な発言をしている人にも手に取ってもらいたいという。高井准教授は「当事者とそれ以外の人たちのすれ違いが著しいと感じる。当事者たちが安心して生活できる社会になれば」と話している。

絵本の翻訳でそのまま用いた「ジェンダー」

高井ゆと里准教授が翻訳した絵本「じぶんであるっていいかんじ」=前橋市で2024年5月26日午後5時2分、加藤栄撮影

 「ジェンダーについてきみがかんじていること。それがほんとうのこと」--。

 群馬大の高井ゆと里准教授(哲学)は、トランスジェンダーの子供が主人公の絵本「じぶんであるっていいかんじ」の翻訳も手がけた。

 絵本にはトランスジェンダーの子供・ルーシーや、性自認が男女のどちらか一方に当てはまらない「ノンバイナリー」の子供たちも登場。カラフルな絵とともに、自分らしいジェンダーで生きて良いというメッセージが込められている。

 絵本はアメリカの出版社から2019年に出版されたもので、23年4月ごろに知人の編集者を通じて、高井准教授に翻訳の依頼がきた。「絵本の中には一貫して道が描かれていて、どの道を進んでも最終的には皆が広場で集まれるという点が魅力」と語る。

 対象は4歳からだが、ジェンダーといった言葉がそのまま用いられている。高井准教授は「これから生きる上で必ず接するようになる言葉。小さいうちから触れてみてほしい」と話した。【加藤栄】

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