10代で出会った3人のテニス選手、アート(左)とタシ(中)とパトリック(右)の絡み合う関係を、本作はフラッシュバックで描き出す ©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
<テニス界の明暗が交錯する『チャレンジャーズ』で、ルカ・グァダニーノ監督が紡ぐ、美しくて奇妙な三角関係>
テニスの世界王者の座を争っているのか? 闘争心をむき出しにした2人の男子選手が激しいラリーの応酬を展開し、観衆は魅入られたように視線を右に、左に向けてボールの動きを追っている。
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『君の名前で僕を呼んで』を手がけたルカ・グァダニーノ監督のエネルギッシュな新作『チャレンジャーズ』は、この一戦で幕を開け、幕を閉じる。ニューヨーク州の地方都市で行われるマイナーなトーナメント大会、フィルズ・タイヤタウン・チャレンジャーの決勝戦にすぎないのに、信じられないほど大きな意味を持っているようだ。
とりわけ食い入るように試合を見つめているのが、観客席にいるシックな若い女性。ボールの行方が、彼女の運命を左右するかのように......。
実は、そのとおりだ。複雑な入れ子状のフラッシュバックが描き出していくように、問題の男女3人は13年間にわたる友情と敵対関係と愛で結ばれ、それぞれが繰り返した選択の末に、今や「運命の一戦」に臨んでいる。
テニス界の天才少女と2人の男性プレーヤー
観客席の女性タシ・ダンカン(ゼンデイヤ)はテニス界の天才少女だったが、大学時代の大けがで選手生命を断たれてしまう。現在は夫でスランプ中の有名テニス選手、アート・ドナルドソン(マイク・フェイスト)のコーチ兼マネジャーを務めている。
コート上でタシの夫と戦うパトリック・ズワイグ(ジョシュ・オコナー)は、アートの子供時代からの親友だが、今は疎遠だ。才能はあっても抑制が利かないタイプで、プロに転向したものの、この10年間はマイナー大会巡りをしてどうにか生き残っている。
冒頭に登場するタシとアートは、世界的に知名度の高いパワーカップルだ。一方、落ちぶれたパトリックは大会会場内の駐車場に止めた車で寝泊まりしている。
だが、3人の力関係は常にこうだったわけではない。
パトリックとアートが、タシに初めて出会ったのは10代のとき。若手のスター選手だった彼らは無敵の天才少女に驚嘆し、欲望に満ちた畏敬の念を抱く。タシの後援者が開いた豪華な優勝祝賀会で、2人の少年は彼女の電話番号を手に入れようと競い合う。
時代を行き来する本作の構造は入り組んでいるが、編集のマルコ・コスタの手腕のおかげで混乱することはない。重なり合う時間枠がシャッフルされ、連続するフラッシュバックのそれぞれが、現在進行中の決勝戦が意味するものを理解するヒントになる。
3人の絆の本質は早々に明確になる。彼らをつなぐのは何よりもテニスで、性的関係は二次的なものにすぎない。技術的鍛錬と動物的パワーの対照性、偉業を成し遂げるにはその両方を手にする必要があることが、作品の最も執拗なテーマとして浮かび上がる。
©2024 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.撮影は『君の名前で』でグァダニーノと手を組んだサヨムプー・ムックディプロームだ。その甘美な映像は、主役トリオの官能性と身体性を際立たせている。『君の名前で』と同様、本作は美しい体や顔を鑑賞してもらいたいという欲望を隠さない。
ゼンデイヤと、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のリフ役で注目されたフェイスト、ドラマ『ザ・クラウン』で英皇太子時代のチャールズを演じたオコナーは、それぞれに魅力的だ。平静で洗練されたゼンデイヤ。優雅でダンサーのようなフェイスト。小汚さが素敵なオコナーの不良っぽい笑顔は、若き日のニコラス・ケイジを思わせる。
男女3人の間を循環する欲望の正体は異性愛か、同性愛か、それともバイセクシュアルなのか。答えを特定することに、グァダニーノは超越的なほど無関心のようだ。
男性2人が争うのは、同じ女性を追い求め続けているからであり、彼らが互いに引かれ合っているからでもある。とはいえ、これは2人の「隠れゲイ」が抑圧してきた性的真実に目覚める物語ではない。
過去の名作映画でも描かれてきたスポーツに宿るエロス
10代当時を振り返る序盤で、タシは2人の少年が互いにキスをするよう仕向け、チェシャ猫のような笑みを浮かべて彼らを見守る。別の映画なら、この先は2人の関係に焦点を当てるだろうが、本作が探ろうとしているのはより間接的で、より倒錯した三角関係だ。
競技と恋愛を両立するため、3人は性的欲望を勝利の原動力に変えなければと感じる。健全とは言えない欲求だ。それは時に逆方向に変化し、破壊的な結果をもたらす。
トップアスリートの日常的な身体活動に織り込まれるエロチシズムは、恋愛とスポーツを結び付けた過去の名作を思い出させる。例えば、野球選手らの三角関係を描いた『さよならゲーム』(1988年)や、女子陸上競技選手同士の恋愛をテーマにした『マイ・ライバル』(82年)だ。
『チャレンジャーズ』は、最も心理的洞察に優れたグァダニーノ作品とは言えないかもしれない。登場人物は時に、個性を持つ生身の人間ではなく、チェスの駒のようにみえる。それでも、グァダニーノが手がけた映画の中で最もペースが速く、最高に楽しめる作品なのはほぼ確実だ。
クライマックスを迎える頃には、フィルズ・タイヤタウン・チャレンジャーの決勝戦が持つ意味は明らか。筆者のようにスポーツに興味のない人でも、観客席のタシと同じく、蛍光グリーンのボールの行方から目が離せないはずだ。
©2024 The Slate Group
CHALLENGERS
『チャレンジャーズ』
監督/ルカ・グァダニーノ
主演/ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー
日本公開中
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