7月31日までの日程でインドのニューデリーで開催されている世界遺産委員会。年に一回、ユネスコの「世界遺産条約」に加盟している195の国と地域が集まる、大きな国際会議です。新しい世界遺産を決め、すでに世界遺産になっているものの保全状況もチェックして場合によっては「危機遺産」に指定して改善を促すなど、「世界遺産に関する最高議決機関」といえます。

インド・ニューデリーでの世界遺産委員会

この国際会議の開かれる場所は固定しておらず、毎年、世界各地の「世界遺産のある都市」で行われます。今年の開催地のデリーにも、やはり世界遺産が3つもあります。

28日まで予定されていた新しい世界遺産の審議が予定よりも早く27日で終わり(この日に「佐渡島の金山」の世界遺産登録も決まりました)、翌28日の審議が休みとなったため、オフとなった会議参加者の多くが世界遺産の視察に出かけました。

委員会にオブザーバー参加している番組「世界遺産」のスタッフも、デリーの世界遺産を回ってみました。さて、現地を見た上でのお勧めの世界遺産はどこでしょうか。

ヒンドゥー教の寺院を改築「デリーのクトゥブ・ミナールとその建造物群」

高さ72メートルのクトゥブ・ミナール

この赤い巨塔が、青い空を背景にそびえる姿は壮観でした。面白いのはモスクの部分で、元々はヒンドゥー教の寺院だった建物を改築して作ったため、ヒンドゥーの神々の彫像が柱などに残っています。

ヒンドゥー教寺院を改築したクトゥブ・ミナールのモスクの遺跡

ただしイスラムでは偶像崇拝は禁止されているため、顔は削られてしまっていました。現在のインドではヒンドゥー教徒が人口の80%弱を占め、イスラム教徒は14%ほどですが、かつてはイスラム勢力がインドを支配していた時代があったのです。

ヒンドゥー教時代から残る柱からは神々の顔が削り落とされている

「タージ・マハル」との鮮やかな対比「デリーのフマユーン廟」

アーグラの世界遺産「タージ・マハル」

ただしフマユーン廟は赤い砂岩、タージ・マハルは白の大理石を基調に作られているので、「赤と白」の鮮やかな対比があります。

赤い城壁に囲まれた壮大な城「レッド・フォートの建造物群」

デリーの世界遺産「レッド・フォートの建造物群」

デリーの3つ目の世界遺産は「レッド・フォートの建造物群」。ここはタージ・マハルを作った皇帝が、タージ・マハルのあるアーグラから都をデリーに移し、居城として築いたものです。やはり赤い砂岩を使い、2キロ以上もある赤い城壁に囲まれた壮大な城。まさに「レッド・フォート」=赤い城です。17世紀に築かれたもので、ニューデリーよりも古いオールドデリーと呼ばれる地域にあります。

このようにデリーにある3つの世界遺産はすべてイスラム教が支配していた時代のものです。しかしヒンドゥー教が全面的に禁じられたわけではなく、たとえばムガル帝国の皇帝はイスラム教でも、その支配下にあったインド各地のマハラジャはヒンドゥー教といった具合に共存していました。

その意味で、イスラムとヒンドゥーの要素がせめぎ合っていることが映像的に分かるクトゥブ・ミナールがインドの歴史・文化を象徴していて、興味深く、巨塔も迫力があり映像向きだと思いました。

7月31日に閉幕したニューデリー世界遺産委員会。今年は「佐渡島の金山」など24の新たな世界遺産が誕生し、パレスチナのガザ地区の遺跡が新たに危機遺産に登録されました。

昨年の世界遺産委員会では、ウクライナのふたつの文化遺産が危機遺産に登録されています。戦火は人々やその生活と共に、貴重な文化財も破壊してしまうのです。

戦争と平和…世界遺産にも、その時々の世界情勢が反映します。来年の世界遺産委員会が、より良い状況で迎えられることを願います。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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