東西の落語家が、所属団体を超えて福岡の街に集結する恒例の「博多・天神落語まつり」が、11月1~4日に開かれる。2022年に亡くなった六代目三遊亭円楽さんが総合プロデューサーとして始めた「落語まつり」も今年で18回目を迎える。円楽さんの遺志を継ぎ、第1回から円楽さんの片腕として伴走してきた林家たい平さんがプロデューサー役を務め、4日間で総勢45人が出演、福岡市を中心に3都市で計24公演が開催される。今年は常連組だけでなく、若手を起用、女性も過去最多となる5人が登場する。たい平さんに思いを聞いた。【聞き手・上村里花】
勢いのある若手を起用
――昨年は「円楽師匠のチャットGPTで顔付け(番組編成)した」とおっしゃっていましたが、今年はたい平さんの色が出て新たなステージに入った感じがします。
たい平さん 円楽師匠が僕らにしてくれたように、これからは僕たちが若い人と博多の街を結びつけていきたいと思います。王道の、芸の揺るがない師匠あり、その一方で、今、すごくノリに乗っている勢いのある若手ありで、その化学反応が楽しみですね。
――個人的には(日本舞踊の名取で、女性の視点を生かした古典落語を展開する)柳亭こみちさんが入ったのがうれしいです。
◆たい平さん そうなんですよ! この間、NHKのラジオでこみちの落語を聴いて、えー!こんな落語をやっているんだーとうれしい驚きで。うれし過ぎて、すぐにこみち本人にも電話してしまいました(笑い)。(池袋演芸場のトリでも)毎日、自分なりにアレンジした落語をやっていて、そういう楽しさをぜひ、博多の皆さんにも味わってほしいなと思って。
――今回は、そのこみちさんをはじめ、昨年度のNHK新人落語大賞を受賞した桂慶治朗さん、笑福亭鶴瓶さんの弟子の笑福亭べ瓶(べ)さん、立川談春さんの弟子で、23年に真打ち昇進したばかりの立川小春志(こしゅんじ)さん、林家正蔵さんの弟子で今春、三遊亭わん丈さんと共に先輩たちを抜いて、抜てきで真打ち昇進を果たした林家つる子さんと計5人が初出演となります。
◆たい平さん やっぱり、(落語まつりで)これだけの人の中に身を置くということは、若い人にとっては、芸人としての成長にもつながると思う。僕もそうやって育てていただいた部分があるので、若手にはこの会で成長していくというか、もう一度、自分を見つめ直して、自分の芸が、今いるところが正しいと思って、進んでほしいという思いもすごくありますね。
風穴を開けた女性落語家
――女性も過去最多の5人が入りました。いずれも勢いと実力のある方々ばかりですが、昨年に続いての出演となる蝶花楼(ちょうかろう)桃花(ももか)さんは今(7月1~31日)、池袋演芸場で31日間連続ネタ下ろしの会という、とんでもない挑戦をされていますよね。
◆たい平さん そう! 今朝もNHKで30分ぐらいのインタビューを受けていましたけど、落語に対する思いがすごく強いし、本当にいろいろなことをやって、新しいお客様を開拓して、落語の楽しさを広げようという思いが強い一人。だから絶対にこの場所(落語まつり)にいないといけないと思いましたね。
――林家つる子さんも初出演になりますが、つる子さんは今年、先輩11人を抜いての真打ち昇進でしたね。落語協会では12年ぶりの抜てき真打ちの誕生でした。
◆たい平さん つる子はサービス精神満点の林家一門で、久しぶりにエンターテイナーが登場したな、と僕なんかは思っている。それはすごくうれしいし、心強い(一門の)後輩ができたと思っています。一席一席を楽しそうにやっている幸せそうなつる子も博多の皆さんに見てほしいですねえ。芸も新作、古典とすっごい面白い! 今回は、桂二葉(によう)ちゃんやつる子、桃花さんなど、芸人にとって「上り調子」ってどんなことなのかを目の当たりにできる落語まつりになっています。
――記者会見でも「落語の面白さ、落語への熱い思いで選んだ」とのお話がありましたが、はからずも5人が女性となりました。
◆たい平さん それは本当に落語の面白さ、勢いがある、という観点で選んだ結果。今まではやっぱりどこかで(落語は)男の芸だと思っていたけれど、男には分からない世界もたくさんあって、そういうところに(女性落語家は)風穴を開けてくれた。今、東京の寄席でも若い女性の落語ファンがすごく増えてきているのは、女性の落語家が発信するからこそ共感を得られている部分もあるのかなと。あと、これはここだけの話ですけど、男性よりも女性の方が「やってやるぞ!」という勢いがありますね。
「女子会におじさん」 顔付けの妙
――落語は生で聴いてこその芸だと思います。その意味で、落語まつりはこれだけの落語家が集結する貴重な機会ですね。
◆たい平さん そうです! 落語はまさに一期一会の芸。本当に(出演者同士、出演者とお客様との)響き合いなんですよね。誰と組むかによっても変わるし、前の人が受けたら次に自分はどうしたらいいか、いい意味ですっごいシビアな心理戦であったり、闘いであったりするので、それは生でしか味わえない良さですよね。
――落語まつりはいつも顔付け(番組編成)が秀逸です。顔付けのコツや意識していることは何でしょうか。
◆たい平さん この落語まつりも、もう18回目になるので、結構、出尽くした感はありますが(苦笑)……いやいや、まだまだ! まだまだ今までやったことないことが絶対にあるぞ!って思いながら、探しています。例えば、今年で言えば「女子会におじさん」(11月3日正午=柳家喬太郎、柳亭こみち、蝶花楼桃花、立川小春志、桂二葉)とか、「人間国宝を祝う会」(11月4日正午=五街道雲助、瀧川鯉昇(りしょう)、立川談春、柳家三三(さんざ)、三遊亭萬橘(まんきつ))とかね。
――その二つは私も気になっていました。「女子会~」は、今、とても勢いのある若手の落語家がそろっていますね。このメンバーに人気者の喬太郎さんをぶつける。
◆たい平さん そうそう! この「女子会~」は、絶対に何か予期せぬことが起こりますよ! いい意味で、間違いが起こる(笑い)。「人間国宝を~」も(昨年、人間国宝に選ばれた)雲助師匠に、談春兄さんと、ある意味「裏人間国宝」といえる鯉昇師匠をぶつけるとかね、他の落語会では絶対にあり得ない。このメンバーで雲助師匠を囲んで何が始まるのか。
――こうした顔付けを考える際のポイントは何でしょうか。
◆たい平さん 円楽師匠も顔付けの際は、半年ぐらい顔付け表を持ち歩いて、あーでもないこーでもないと、楽しそうに考えていらした。だから、僕も一落語ファンに戻って、こんな夢のような顔付けがあったらいいな、例えば、先ほど話した雲助師匠と談春兄さんを一緒に組ませてみるとかね。われわれ落語家には香盤(序列)があるのですが、この会ではそれは一切考えないようにしている。それを考え始めたら、顔付けできないので。
普通の会だったら、やっぱり香盤の順である程度、出番が決まってきますけど、ここでは芸歴は考えない。普段、トリを取る師匠を前に持ってきたり、そしたら、どんなことをなさるんだろうとか、そういった楽しさがある。それが「落語まつり」の楽しさかもしれませんね。
お客様と創り上げる「落語まつり」
――お祭りならではの一種の無礼講で、こうした顔付けができるのですね。改めて「落語まつり」の見どころを一言お願いします。
◆たい平さん ネタ出しをしていないことです。前の人の落語を聴いて、何をやろうか考える。それがやっぱりライブの楽しさですから。「落語まつり」は、芸人とお客様が一緒に創り上げるお祭りです。ぜひ、参加してみてください!
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この日(7月15日)、たい平さんは朝3時45分に起きて、息子で弟子の林家さく平さんと博多祇園山笠のフィナーレである追い山笠(やま)を見物したという。小さな子供たちが締め込み姿で、必死に走る姿を見て「あの若い力が未来につながるんだと改めて感じた。この落語まつりも今後、まだ円楽師匠が声をかけていなかった若い人たちに声をかけていきたい。だから最近は若手の落語をよく聴くようになりました」と笑った。
8月3日チケット発売
チケットは3日午前10時、ローソンチケット、チケットぴあなどで発売。各公演とも全席指定6000円(当日6500円)。問い合わせはキョードー西日本(0570・09・2424、日祝日除く午前11時~午後3時)。
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