一匹狼の刑事だったアクセルは今や地元市民のマスコット的存在に MELINDA SUE GORDON/NETFLIX ©2024

<エディ・マーフィーをスターダムに押し上げた大ヒット映画シリーズ最新作『アクセル・フォーリー』は、80年代映画の派手な魅力で観客を「懐かしのムード」に──(レビュー)>

コメディアン・俳優のエディ・マーフィーが、映画『ビバリーヒルズ・コップ』のおかげで手にした名声の大きさは、どれほど強調しても足りないほどだ。

アメリカで1984年12月に公開されたこの作品は、翌年3月まで13週連続で興行収入ランキング首位を維持し、その年に最も稼いだR指定映画の座を獲得した。


主人公の型破りなデトロイト市警の刑事、アクセル・フォーリーを演じたマーフィーは、出身番組『サタデー・ナイト・ライブ』にホストとして凱旋。著名写真家アニー・リーボビッツが撮影を担当した音楽アルバムも発表した。

『ビバリーヒルズ・コップ』は、主演俳優を見どころとするタイプの映画の最高傑作の1つだ。早口で繰り出す鋭いジョーク、頭の回転と威勢のよさ、クールさというマーフィーの魅力を披露する舞台として、設計されている。

それと同時に、80年代映画ならではのタフな「一匹狼の刑事」の象徴に、マーフィーを仕立て上げた。

もはや英雄でない警察

ストーリーは、殺人犯を追ってカリフォルニア州ビバリーヒルズに単身で乗り込んだアクセルが、地元刑事らに規則破りの威力を示すというもの。彼は令状なしに倉庫に侵入し、命令に背き、麻薬密輸人である敵を倒すためにしでかした不法行為を見事に取り繕ってみせる。

堅苦しいルールにとらわれない「正しい」警察活動は世のためになるというメッセージは、続編2作にも引き継がれている。

『ビバリーヒルズ・コップ2』(87年)で、アクセルは前作で親しくなった刑事2人、ビリー・ローズウッド(ジャッジ・ラインホルド)とジョン・タガート(ジョン・アシュトン)と共に、官僚主義の警察署長との対決を迫られる。

『ビバリーヒルズ・コップ3』(94年)では、悪役であるシークレットサービスの特別捜査官とテーマパークの警備主任を機関銃で打ち倒す。

第3作公開から30年がたった今、映画の中の警察描写は激変した。そんな時代によみがえったのが、7月初めにネットフリックスが配信開始したシリーズ最新作『ビバリーヒルズ・コップ:アクセル・フォーリー』だ。

警察の勇敢さではなく、欠陥に光を当てようとする現代、本作はシリーズで初めて「革命的」な視点を取り込んでいる。警察が嘘をつき、不正を覆い隠すのは悪いことなのではないか──。

アクセルはもはや刑事というより、地元で愛されるマスコット的存在だ。早速、お決まりの銃撃戦とカーチェイスが始まり、アクセルはまたも騒動を引き起こす。彼は時代遅れの刑事かもしれないが、それ以外に生きる道がない。

娘のジェーンを救うため、アクセルは再びカリフォルニアへ MELINDA SUE GORDON/NETFLIX ©2024

刑事を引退したビリーから連絡を受けたアクセルは、疎遠になっている娘のジェーン(テイラー・ペイジ)に危険が迫っていると聞き、再びカリフォルニアへ向かう。

弁護士のジェーンは、刑事殺害犯として告発された男性の無実を信じ、容疑を晴らそうとしている。同じ考えのビリーは、ケイド・グラント警部(ケビン・ベーコン)率いる麻薬対策チームの腐敗を疑ったことから、かつての相棒で警察署長に昇進したタガートと仲たがいしている。


「いいワル」はいるのか

元刑事のウィル・ビールが脚本を手がけた本作は、複雑でありながら単純だ。さまざまな展開があるものの、ジェーンとビリーが正しいことは疑う余地がない。悪役のベーコンは登場した瞬間から、笑えるくらい怪しい。

捜査のためなら嘘をついてもいいと主張していたアクセルは今回、どんな嘘も辞さない刑事が持つ権力を思い知ることになる。汚れ仕事に雇う殺し屋のことを尋ねられたグラントは薄笑いを浮かべ、アクセル自身の独創的な捜査手法に触れる。「おまえだって、純粋無垢ではないだろう」

刑事殺害事件を解決しなければならず、必要な証拠を確保するためなら「何でもする」と、グラントは言ってのける。賢明な堅物刑事ボビー・アボット(ジョゼフ・ゴードン・レビット)の車内に麻薬を仕込むことも、ジェーンの誘拐も、ビリーを拷問することも......。

今度の敵は麻薬対策チームを率いる悪徳刑事グラント(中央) ANDREW COOPER/NETFLIX ©2024

アクセルは警察の不正という概念に無知なわけではない。ただ、彼に言わせれば、悪徳刑事と「いいワル」の刑事は違う。後者の場合、ルールを無視することがあっても、それは正しい目的のためだ。

この微妙な区別はあまりに曖昧で、昔ながらのアクションコメディー映画が求める要素の前では影が薄くなる。

アクセルと新たな相棒2人、ビリーとボビーが警察とカーチェイスを繰り広げる頃には、懐かしのムードになる。「追われる側になったのは初めてだ」。そうつぶやくボビーに、ビリーは「楽しむには慣れが必要だ」と笑う。

アクセルとグラントはどこが違うのか。その差を見極めようとする人が、今の時代に大勢いるとは思えない。30年の年月は長い。その間に現実世界では、初期3作でアクセルの上司を演じた本物のデトロイト市警警部が、不法行為で告発される事件も起きた。

『アクセル・フォーリー』がヒット作になるのは間違いない。視聴者の心をつかむのは、本作のノスタルジアだ。ここには、大物スターの魅力だけで映画が成立した時代への郷愁、80年代映画の派手な銃撃戦への郷愁が満ちている。

何よりも懐かしんでいるのは、「いいワル」の刑事という存在を信じることができた過去だ。今でも、そう信じられるかどうかは疑問だが......。

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