公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。
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「陰陽師0」
平安時代の陰陽師、安倍晴明を主人公とした夢枕獏の小説シリーズを原作に、晴明の〝学生時代〟を描くオリジナルストーリーのアクション大作。佐藤嗣麻子監督が脚本も手がけた。
晴明は山﨑賢人。「キングダム」シリーズを筆頭に「ゴールデンカムイ」や配信ドラマ「今際の国のアリス」など、ともかく大作の主役を片っぱしから演じているが、クールな晴明を既視感なく見せて見事だ。
晴明は、源博雅(染谷将太)とともに徽子女王(奈緒)をめぐる怪奇事件の解明に挑む。ふたりは、ホームズとワトソンのようなコンビ感をうまく醸し出す。
北村一輝、小林薫ら実力派が周りを固める。堅実なキャスティングは華やぎには欠けるが、偽りや虚飾を見破り、真実を見つめる晴明の人物像をくっきりと浮かび上がらせる。
晴明が立ち向かう悪意は、インターネット時代に交錯する虚々実々の情報とも重なり、きわめて現代に合致した主題を扱っているといえる。
佐藤監督の夫は山崎貴監督。山崎監督の「ゴジラ-1・0」ばりの迫力満点の特殊効果も登場する。
19日から全国公開。1時間53分。(健)
「マリウポリの20日間」
2022年2月、ロシアに侵攻されたウクライナ東部の都市、マリウポリの人々の様子を、AP通信のウクライナ人記者、ミスティスラフ・チェルノフと取材チームが記録したドキュメンタリー作品。米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
ロシア軍が迫る中、チェルノフらはマリウポリに入る。「戦争は爆発ではなく静寂から始まる」という言葉が、心にずしんと響く。ロシアの爆撃で、若者や子供が次々と死んでいく。胸のすくような反撃場面はない。想像もつかなかった理不尽が、街と人々を踏みにじっていく。戦争とは。正義とは。重い問いかけが脳裏を離れない。ウクライナ・米合作。
26日から全国公開。1時間37分。(耕)
「辰巳」
「ケンとカズ」で注目された小路紘史監督の8年ぶりの新作アクション映画。
裏社会で生きる辰巳(遠藤雄弥)は、組織内のトラブルで元恋人の京子(龜田七海)が殺された現場に居合わせる。辰巳は、一緒にいた京子の妹、葵(森田想)と逃げるが、葵は姉の復讐を誓い、辰巳に協力を求める。
物語に新味はなく、俳優らの演技も不安定だ。しかし、小路監督は、遠藤や森田、後藤剛範ら俳優陣から、情動がほとばしる別人のような表情を引き出した。血のにおいがしそうな重々しい暴力表現の中で、辰巳と葵の関係が変化する様子が丁寧に描かれる。次作が早く見たい。15歳未満は鑑賞不可。
20日から全国公開。1時間48分。(耕)
「リバウンド」
指導経験のない新人コーチに寄せ集めの選手6人という廃部寸前の釜山中央高校のバスケットボール部が2012年、全国大会で予想外の快進撃を続け、韓国中を感動させた実話を映画化。高校生たちの挫折と栄光を描いた青春ドラマ。
登場人物、高校名も実名の上、オールロケでリアルさにこだわった作品。ロングテイクで撮影された試合シーンは、まるで実際のスポーツ中継をみているようだ。コーチ役のアン・ジェホンがコミカルな演技を交えながら熱血漢を好演。タイトルにはミスをチャンスに変え、失敗を成功に導くという人生賛歌が込められている。監督はチャン・ハンジュン。韓国映画。
26日から全国順次公開。2時間2分。(啓)
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