NHKの朝ドラ「虎に翼」で主人公・寅子の友人、崔香淑(さいこうしゅく)(チェ・ヒャンスク)を演じる韓国人俳優、ハ・ヨンスさん(33)が毎日新聞のインタビューに応じた。母国の芸能界で活躍してきたヨンスさんは今春、「虎に翼」で日本デビューした。日本進出を目指した理由や異国での苦労など数々の秘話を明かした。
戦前・戦後の日本を舞台にした「虎に翼」は、女性初の弁護士、のちに裁判官になった三淵嘉子がモデルの物語。ヨンスさんは法律の道を志し朝鮮半島から渡ってきた留学生を演じ、伊藤沙莉さん演じる寅子ら仲間から「ヒャンちゃん」の愛称で親しまれる。
韓国で数々のドラマや映画に出演し、主要キャストも経験したヨンスさんは、なぜ日本の芸能界に挑戦したのか? 蒼井優さんが出演する映画「オーバー・フェンス」(2016年公開)が好きで、蒼井さんに憧れていたという。当時の所属事務所の先輩で韓国ドラマ「トンイ」の主演で知られるハン・ヒョジュさんが日本の作品に出ていたことから「私も行きたい」と事務所の社長に直訴した。だが、社長からは「韓国で経歴をもっと作らないといけない」と諭された。
「その時の私は日本語が全然しゃべれなくて諦めたんですね。でも10年近くたって、これ以上、遅くなったら何もできないかもと思った」。30歳を過ぎ、念願のチャレンジを決意した。22年に来日し、インターネットで見つけた現在の事務所に腰を落ち着けた。「独学で始めた日本語も伸びてこれくらいなら何とかなるかも、と変な自信を持って来ました」と笑う。
オーディションに繰り返し参加し、オファーを待つが、結果は出ない。「この年で日本に来てどうするんだ」と一時、後悔が頭をよぎった。気落ちし、ものもらいや甲状腺が腫れる症状が出たこともある。
それでも、韓国語で「やればできる」を意味する「ハミョンドゥェンダ」の精神で演技に磨きをかけ、昨夏に「虎に翼」の出演を決めた。「数年前は日本で働くとは全然思っていなかった。イメージするだけじゃなくて、実際に来てやればできるんだなって思います」
釜山出身。絵を描くのが得意で、高校でアニメーションを学んだ。美大進学を目指してソウルへ行ったが、芸能事務所からスカウトされて役者の道へ進んだ。ベッドと机しかない狭い部屋に住み、貯金をし、30歳で家を買うという小学生の頃の夢をかなえた。「家を買って幸せになるって思ったんですが、そうではなかった」。満たされない気持ちも異国での挑戦につながった。
今後は日本語に磨きをかけ、日本映画に出演したいと意欲的だ。来日の動機の一つになった蒼井さんとはまだ会えていないという。「できるところまでやってみようという気持ちです」。目を輝かせながら、「ハミョンドゥェンダ」の精神で飛躍すると誓った。【福田智沙】
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