兵庫県尼崎市を舞台に、人情に厚い町の人々を、関西出身のキャストとスタッフが描いた映画「あまろっく」が19日から全国で公開された。江口のりことともにダブル主演を務める中条あやみは「人と人とのつながり、ちょっとしたおせっかいといった優しさでできた物語」と話す。
「あまろっく」は、海面より低い「ゼロメートル地帯」を水害から守るために備えられた尼崎閘門(こうもん)の通称「尼ロック」に由来する。地元での知名度はそれほど高くなく、小学6年まで同市で暮らした中村和宏監督も知らなかったという。2018年に台風21号が近畿地方を襲った際、尼ロックのおかげで尼崎に大きな被害がなかったことを報じる記事を見て、功績をアピールしなくても実は大きな役割を果たしているところが、家族での父親のイメージと重なり、着想を得た。
町工場を営む竜太郎(笑福亭鶴瓶)はご近所さんと話し込んでばかりで働いている気配がない。そんな父を見て育った39歳独身の一人娘・優子(江口)は「能天気な父のようにはなりたくない」と東京の大手企業でバリバリ働いていた。しかし理不尽なリストラで失業し、再び尼崎の実家に戻ってくる。
ある日、竜太郎が「再婚する」と言って連れてきたのは20歳の早希(中条)。自分より年下の「母」を受け入れられない優子と、家族になりたいと望む早希の話はかみ合わず、3人の思いはすれ違う。そこにある悲劇が起きたことで、優子はこれまでの人生を振り返り、家族について考えていく。
中条は45歳差の男性と結婚するという役どころ。「非現実的な話と思われるかもしれないけれど、優子と早希という性格が正反対の2人が本当の家族とは何かを考え、家族になっていくストーリー。2人のキャラクターが違うからこそ面白い」と話す。
鶴瓶は芸能界の大先輩。夫婦を演じるうえで戸惑いはなかったのだろうか。「恐縮していてはいけないと思って、スマートフォンに(鶴瓶)師匠の写真のシールを貼って、『私の旦那さん』と思いながら眺めていました。おかげで緊張せずに撮影できました」と笑顔で明かす。
若き日の竜太郎を松尾諭、優子の母を中村ゆり、町工場の事務員を久保田磨希、工場の職人を佐川満男が演じるなど、関西出身のキャストがそろう。中条も大阪市阿倍野区出身で、テンポの良い関西弁の掛け合いも心地よい。
家族の温かさを強く求める早希が孤独な幼少期を過ごしたことを竜太郎が知り、優しい言葉で包みこむシーンが印象的だ。「『そんな不幸なことでもなかったんちゃうか』と思えるくらい、言葉に愛情がある。こんなふうに全員に理解されなくても、誰かが言ってくれる言葉で救われることや、ちょっとマインドを変えてみるだけで捉え方が変わることってありますよね」。早希だけではなく、不器用な性格の優子も周囲の人々はおおらかに受け入れている。
尼崎の魅力がたっぷりと詰まった今作。中条自身は芸能活動のため、18歳の時に上京した。「東京から帰ってくると、関西は人と人との距離の近さが温かいなと感じる。『厚かましいな、ちょっと遠慮せえや』みたいな部分もあるけど」と冗談めかしながらも地元愛をにじませた。
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モデルに加えて映画やドラマ、CMにも引っ張りだこ。英国人の父と日本人の母の間に生まれ、最近では翻訳を手がけるなど活躍の場はますます広がっている。「どのお仕事も楽しいし、経験することで他のお仕事に役立つことがある。今はできることがあるなら何でもやってみたい」。好奇心いっぱいの笑顔で語った。【山田麻未】
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