「ヒトラー南米逃亡説」をモチーフに作られた新たなナチス映画は、ダークだがまさかのコメディー。

 映画のどこにもヒトラーの悪行の描写はない。序盤の幸せに満ちた家族の写真撮影の風景から一転、絶望と孤独にさいなまれる老人が一人いるだけ。彼は一株のバラを抱きかかえんばかりに世話をしている。

 そんな誰とも交わらずに暮らす老人の隣に越してきたのは、なんとあの憎きヒトラーによく似た人。「まさか」と「もし」が重なり続け、疑心暗鬼から逃れられない。

 皮肉にも、老人の絶望の原因となった(かもしれない)隣人の観察は、彼に生きる活力を与える。

 ハッピーエンドで終わってほしい私の想像の斜め上をいくラストに、ぼうぜんとしながらも祈るしかない。

(スターシアターズ・榮慶子)

◇シネマプラザハウスで上映中

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