「鉄道の甲子園」ともいわれる高校生の鉄道模型コンテストが毎年夏に開かれる。過去に日本一になったことのある広島の高校は、一部の区間が存続の危機にあるローカル線、芸備線のジオラマでコンテストに臨んだ。生徒たちの “暑い夏”に密着した。
存続の危機にある芸備線をジオラマに
8月2日から、東京で開かれた「全国高等学校鉄道模型コンテスト」には、176校が参加し、ジオラマや鉄道模型作りの技術を競い合った。
この記事の画像(20枚)広島市にある広島城北中学・高校は中高一貫の男子校で、鉄道研究部はコンテストで過去に2回、日本一の「文部科学大臣賞」を受賞している。
現在は45人の部員がいるが、部室には、駅名標から製造銘板などなど鉄道に関するものがずらり…。同好会時代も含めると30年以上の歴史がある。
部を代表して、鉄道模型コンテストに参加するのが、高校一年生の藤附さん、竹本さん、温水さん、そして中学3年生の品川さんの4人。
ジオラマの舞台は、岡山県新見市から広島市を結ぶJR芸備線。乗客の少ない一部の区間が存廃を含めた今後の在り方を、国、沿線自治体、JRの「再構築協議会」で話し合っている。その対象区間の中でも、鉄橋と古い街並みで有名な撮影スポットになっている備後西城駅付近を選んだ。
広島城北高校1年生・温水宥斗くん:
ここは、もともと撮影地として結構、有名。風景が美しいと思って選んだ。芸備線は今、存続の危機に立たされているので、ジオラマを通して少しでも芸備線の魅力を知ってもらいたい
ジオラマの一番の見せ所は、中央を流れる西城川。リアルさを追求するため、芸備線に乗って現地の下見も行った。顧問の先生からは、草の生え方をよく見て、より、リアリティーを出すよう指導された。
ジオラマは、約5カ月かけて制作。東京の会場に送る時間を考えると残り10日の時点でも、まだまだ課題は山積みだ。西城川に草むらを作り、リアリティーを追及する人。ジオラマに配線を巡らせ電飾を担当する人。部員たちがそれぞれのパートに分かれて、ジオラマは少しずつ完成に近づいていった。
日本一の栄冠に輝いた先輩の作品を参考に
制作が大詰めを迎えたある日、4人は先輩がつくったジオラマに見入っていた。校舎の入り口、一番目立つ場所に飾られた、原爆ドーム周辺と、坂の町・尾道のジオラマは、2016年と2019年に文部科学大臣賞を獲得し、日本一の栄冠に輝いたときのもの。
大会を目前に控え、偉大な先輩たちのジオラマから、何か得ることはできたのか?
広島城北高校1年生・温水宥斗さん:
例えば、この柵のところも紙で一本一本を全部作っていったって、聞いたんですよ。そういうところがもうすごいなと思います
広島城北高校1年生・藤附裕矢さん:
建物の照明が明るすぎない感じに、ストローでちょっと覆ってあって、明るさを調節しているので、そこは見習いたいなと
いよいよジオラマの大事な部分、川に色を付けた液状の樹脂を流しこみ、川の水を作りこむ日がきた。樹脂が固まる前に漏れ出せば、すべてがまさに水の泡になる。
川の底は石膏で、川を囲う板とのつなぎ目は粘土でがちがちに固めた。樹脂が漏れないかどうか、固唾(かたず)をのんで見守る。
準備の甲斐あって、樹脂が漏れ出すことは無く、この後も、水面に波を立たせたりと、発送ギリギリまで作業は続いた。
東京の会場ではプレゼンも評価の対象に
そして4人は東京での高校鉄道模型コンテスト会場に。大会は3日間に渡って行われ、模型、ジオラマの出来だけでなく、ステージでのプレゼンテーションも評価の対象となる。
--広島城北高校の芸備線のジオラマの出来栄えは?
広島城北高校1年生・温水宥斗さん:
川は非常に満足のいく出来かなと思います
広島城北高校がエントリーしたのは、幅90cm、奥行き30cmのなかで情景を表現するモジュール部門。ジオラマ中央の西城川には川の流れを作り、鮎釣りをする人まで配置。古い街並みや鉄橋もとてもリアルな仕上がりだ。
来年は中心メンバーを担うことになる中学3年生の品川さんには、気になるジオラマがあった。初出場の「尾道高校」の尾道の街並みを舞台にしたジオラマだ。3Dプリンターを駆使するなど技術的にもレベルが高そうだ。
広島城北中学校3年生・品川拓人さん:
建物とかも3Dプリンターで作ってあって、塗装や建物の形がすごいきれいでいいなと思いました
全国から176校が参加した大会3日目の最終日には、最優秀賞が発表される。その前に4人は評価の対象にもなるプレゼンにたった。
広島城北高校のプレゼン 竹本悠玖さん:
今回再現した場所は広島県北部の庄原市に位置する備後西城駅近くの街とその周辺です。作品の見せ場の一つである川は西城川の流れをできるだけリアルに再現しています。実際の模型と写真と動画を比較し、石の配置や川面に立つ白波を丁寧に表現しました
最優秀賞の栄冠は?
場内アナウンス:
最優秀賞は白梅学園清修中高一貫部です。おめでとうございます!
最優秀賞の作品は、『「ようきてくれんさった」垣間見る岐阜』。川と柳、古き良き日本の風情を表現している。
最優秀賞は逃したが、広島城北高校はベストリアル情景賞を受賞した。
広島城北高校1年生・温水宥斗さん:
部員たち全員で作り上げた作品だったので、評価されたというのはいいことかなと思います。会場に来た人は、芸備線を知らない人がほとんどだったと思うんですけれども、思いをはせて、存在を知ってもらうだけでもすごい良かったかなって思います
約5カ月を費やし、鉄道研究部の部員一丸で作り上げた芸備線のジオラマ。制作にかけたその熱い思いは、これからも後輩たちへと受け継がれていく。
(テレビ新広島)
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