地中海の白い迷宮都市「テトゥアン旧市街」
山の斜面に沿って白い家々が建ち並び、旧市街全体が高い城壁で囲まれています。
街の中には細い道が迷路のように広がり、まさに白い迷宮都市。番組「世界遺産」で撮影したのですが、石畳の路面に帯状の線が走っていて、実はこれが道案内の役目を果たしています。
道の中央に3本の線があるのが大通りで、城門に続いています。2本線は大通りから分岐した路地。1本線はその先が行き止まりになっている袋小路・・・という具合です。
15世紀、スペイン・アンダルシア地方に住んでいたイスラム教徒がキリスト教勢力に敗れ、海を渡ってアフリカ側に逃げてきて住みついたのがテトゥアンです。そのため今でもアンダルシアと相通じるところがあります。
たとえばテトゥアンの白い家並み。アンダルシアには、かつてイスラム教の王朝が築いた世界遺産「アルハンブラ宮殿」がありますが、その近くにも同じような白い家並みの住宅地があります。またアルハンブラ宮殿内部を飾る色タイル・・・これもモロッコのテトゥアンで同じようなものを見ることが出来ます。
テトゥアンの街角に色鮮やかなタイルで作られた水場があるのですが、このタイルはアルハンブラに由来するものなのです。
水場は街の各所にあり、水が出っぱなしで誰でも自由に使うことが出来ます。水源は山の斜面に沿って作られた街の上の方にいくつもあり、そこから地下水路が張り巡らされ、傾斜によって自然と街の下へと流れているのです。
この地下水路網、作られてから500年経っても現役。
かつては飲料水としても使われ、水場だけではなく各家庭にも分配され、顔を洗ったり食器を流したり、生活用水として使われています。
近代的な水道が出来る前は、貴重な「命の水」を得るために都市の人々はさまざまな工夫をこらしてきました。
宙に浮く家!スペインの空中都市「クエンカ」
尾根が細長く続いているため、街も細く長く1キロつづき、所によっては尾根筋からはみ出して高さ50メートルの崖の上に突き出している建物もあります。そのため「空中都市」と呼ばれるようになりました。ここも最初はイスラム教徒が要塞として使い始め、12世紀にキリスト教勢力のものになって今の街並みが出来たのです。
クエンカの街の中に水源はなく、10キロ離れた山から水を引いています。そのために崖に沿って延々と水路や水道橋を作りました。番組でも取材したのですが、切り立った崖の水路は通常のスタッフでは撮影困難で、現地のクライマーに登ってもらい、カメラを回してもらいました。
16世紀に作られたこの水路は今では使われていませんが、かつては街の各所にある水場へ水を供給して、当時の人口1万5千人の「命の水」となったのです。
一方、地下18メートルにトンネルを作り、山から街まで水を引いたのがアラビア半島のオマーン。
その水利施設が世界遺産「オマーンの水利システム」になっています。
ファラジと呼ばれる水利・灌漑施設が今も約3000か所で使われていて、そのうちの5つが世界遺産。
砂漠の中に突如として緑豊かなナツメヤシの畑が現れ、その畑や街の中を、水路が縦横に走っている様子はまさに「オアシス都市」。水利システムは2000年以上の歴史があり、今も砂漠の中の街と畑を支えつづけているのです。
夏の気温が50℃にもなるオマーン。水路を使って、子どもたちが水遊びしていました。
番組で撮影したのですが、まるでウォータースライダーのよう。
水路は街の中を血管のように巡り、最も山寄りの上流が飲料用の水汲み場。
そこよりも下流の水路で、人々は洗濯をして食器を洗い、さらにモスクでの礼拝前に水で身を清めます。
このように生活用水として先に使い、最後にナツメヤシの畑に流れこむという、合理的な仕組みになっています。
ファラジとは「分かち合う」という意味とのこと。モロッコの迷宮都市も、スペインの空中都市も、そしてアラビアのオアシス都市も、「命の水」を分かち合うためにそれぞれが壮大な仕組みを作り、それが世界遺産になっているわけです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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