舞台や主要キャストが変わらない中、二宮和也が「別人」の医師を演じるという掟破りの試みに挑む日曜劇場『ブラックペアン シーズン2』。本作で新たに起用された西浦正記監督は、医療ドラマを含めこれまで数々の人気作品を手がけ、確かな演出力で手腕を発揮してきた。

シーズン1に続き指揮を執る伊與田英徳プロデューサーからの「指名」を受け、前作の主人公・渡海征司郎に代わる「悪魔的」世界的天才外科医・天城雪彦と、それを取り巻く医師たちの葛藤や成長を描く。クラシックがかかる芸術的なオペシーンなどの演出が光る一方で、人間ドラマにもフォーカスを当て、芝居と「正直に向き合いたい」と、監督としての思いを語る。

作品全体を考える力 「二宮さんは希有な存在」

——フレームに収まりきらない二宮さんの魅力はどのようなところでしょうか?

二宮さんは作品自体を客観的に見ていて、例えば具体的にセリフをアレンジして「作品全体がこういう風にいい方向になるから、こういうのはどうですか」という提案をしてくれます。映像だけを見ていると、動きも含めて台本にもともと全部書いてあるようにも見えると思うのですが、スタッフやわれわれ監督が台本からいろいろ膨らませたりアレンジしたりしていく中で、二宮さんはそこに関するスペックも搭載している感じがあるんです。作品全体のことをすごく考えていて、いろんな提案や、スタッフとのやり取りもしてくれている印象です。ただ、作品全体を見ているので、一人よがりになることがなくて、希有な存在だなと思いますね。フレームの外でもすごく躍動してくれています。

——撮影を進める中で、本作に出演する役者さんだからこそ生まれている化学反応のようなものはありますか?

この作品自体が、ストレートな心情を描くようなドラマというよりは、医療を軸にファンタジーの部分とリアリティのある部分が混在しているドラマなので、その中でリアリティの部分をすごく丁寧にやっておかないと、ただガチャガチャとしたドラマになってしまいます。その中で、皆さんご自分のキャラクターをちゃんと生きていらっしゃるし、周りのスタッフ、監督も想像し得ないような、役本人じゃないと気づけないところも含めて、シーズン1から演じていらっしゃるので、キャラクターが定着していますよね。時間が流れてシチュエーションが変わったこと以外は、キャラクターは基本的に変わっていないので、彼らの持っている感覚みたいなものは、芝居でセッションしていく時にとても参考になるし、気づかされることも多いです。毎日、毎シーン、化学反応を感じています。

——監督として良い画を撮るために粘ることがあるかと思うのですが、どのようなところで線引きをしていらっしゃいますか?

自分の中での正解の範囲がある程度あって、その範囲の中でOKを出すというスタンスです。自分が最も良い表情、お芝居だと思うものに持っていくためには、セッションも含めやはりすごく時間がかかるのですが、連続ドラマは時間がそんなにありません。であれば、役者の方々にちょっとでも疑問を感じながら演じるよりも、気持ちよく自分の感情を出していただけるようなタイミングで、線を引くようにはしています。

オペシーンにクラシック 回を重ねるごとに完成形に

——今回『ブラックペアン』制作チームにとっての挑戦はありましたか?

オペシーンは完成してきたなと思います。クラシックをかけて撮影するのですが、その曲の持っているバックボーンがうまくマッチする曲や、深くて悲しいオペのシーンにはクラシックの曲をまず選ぶなど、オペの雰囲気によってイメージを膨らませて選曲しています。部分撮りでもいろいろと撮っていて、カット割りやエフェクトや曲の選択といったところは完成されてきていますし、楽しみにしていただきたいです。

——クラシックの活用は撮影の前から決まっていたのでしょうか?

二宮さんともお話をしていて、今回は天城が「芸術だ」とセリフで言っているように、シーズン1の渡海の黒い塊のような力強さや強直な感じというより、どことなく柔らかい感じをイメージして、クラシックをかけるのはいいよねと。プロデューサーにも相談した上で、決まりました。どうやったら面白い見え方になるかなど、回を重ねるごとに洗練されていっていますね。

——シーズン2の監督をする上でご自身に課したことはありますか?

シーズン1を極力踏襲しようとは思って臨みました。もちろんセットもそうですし、メインキャラクターそれぞれのキャラクターをきちんと踏襲する。前作に比べて、もう少し「人間ドラマ」をしっかりと追っていきたいという思いもありました。もう一つは、やはりオペシーンですね。これまでにも医療系の作品を撮ってきたので、自分の中にあるノウハウも含めて、より新しいものにできればという思いはありました。

人間ドラマを「綴る」こと

——高階先生(演:小泉孝太郎)のように「必要ならルールは変えろ」と考えていることはありますか?

前作の監督ではない人間が撮ると、だいぶ色が変わると思います。台本も違います。ただ、「これはちょっとルールが変わったのかな」と思うぐらいで、「絶対に変えてやる」みたいな気負いはないです。日曜劇場のドラマで、二宮さんが別のキャラクターで主役を演じて、さらに監督も新たなかたちで外から入るということ自体が、ルールを破ってやろうという意図を感じるので、プロデューサーにとってはすごい覚悟だったと思います。監督として指名していただいたので、自分がやりたいことに突っ込んでいくだけですね。気持ちよくやらせていただいています。

——天城雪彦のように「変えられない自分のスタイル」はありますか?

お芝居に対しては、正直に向き合っていきたいです。今回は1話から大仕掛けなシチュエーションでたくさん撮影してきたのですが、それはそれとして、やはり大事なのは人間ドラマを「綴る」ことだと思っています。それがちゃんと綴れていれば、見ている方も飽きないと思うんです。なので、そこに対してすごく正直に向き合って、とことん俳優さんとも向き合っています。撮影のときに時間がなければ、休憩やご本人の出番のないときに、「このシーンはこうした方がいいと思うけど、どう思いますか」というようなセッションをしてから撮る。そこに関しては一番自分の能力も発揮できるし、これからも負けずにやっていけるといいなと思っています。

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